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太田精器「モンスターウルフ」がクマ対策に貢献 北海道の町工場が開発した鳥獣害対策ロボット

太田精器「モンスターウルフ」がクマ対策に貢献 北海道の町工場が開発した鳥獣害対策ロボット

株式会社太田精器

掲載企業株式会社太田精器

北海道奈井江町に本社を構える太田精器。社員数約45名の町工場が開発した鳥獣害対策ロボット「モンスターウルフ」が、今、全国から注目を集めている。赤く光る目、左右に動く首、そして大音量で響くオオカミの咆哮や銃声、人の声。迫力ある姿と音で、クマやシカ、イノシシなどを威嚇し、農地や人の生活圏への侵入を防ぐ装置だ。

近年、全国各地でクマによる被害や目撃情報が相次ぐなか、自治体や農業関係者などからの問い合わせが増えている。現在では月約40台のペースで出荷しているという。一昨年までの約8年間の累計販売台数が315台だったことを考えると、ここ1年ほどで出荷台数は飛躍的に伸びた。現在は全国で約400台が稼働している。

モンスターウルフは、どのようにして北海道の町工場から生まれたのか。その背景には、下請け型の事業から脱却し、自社のものづくりで社会課題を解決したいと考え続けた、太田裕治社長の挑戦があった。

太田精器社内の様子

警察官から町工場の経営者へ――太田精器・太田裕治社長の歩み

太田精器を牽引するのは、2代目の太田裕治社長だ。もともと家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後は千葉県警察に勤務した。正義感が強く、人を守る仕事を志した太田社長は、1980年代後半には機動隊員として成田空港の警備にも従事。盾を手に、緊張感のある現場に立っていたという。

太田精器は、先代が1981年に創業した。近隣に工場を構えていた北海道キンセキ向けのビデオ部品の組立作業が、事業の始まりだった。転機が訪れたのは1992年。父親の体調不良をきっかけに、太田社長は千葉県警を辞め、家業を継ぐことを決意した。当時の太田精器は、手作業による組立加工が中心だった。利益率は低く、取引先の意向に大きく左右される事業構造だったという。「親会社の言うとおりに仕事をするだけの下請けでは、会社の将来はない」太田社長は、既存の事業構造を変える必要性を強く感じていた。

下請け型の組立加工から高精度な精密部品加工へ

太田社長が次に挑んだのが、精密部品加工だった。

「自分は文系ですから、工作機械のことなどまったく分かりませんでした。しかし、ほかの企業ではできない仕事をやらなければ、いずれ仕事がなくなると思ったのです。無我夢中で精密加工に取り組みました」工作機械や加工技術を一から学び、設備投資を進めながら、難易度の高い仕事に挑戦した。手作業が中心だった組立加工業から、大手工具メーカーや測定機器メーカー、自動車業界のTier1企業などに向けた精密部品加工へと事業を転換。技術力を高めることで、新たな受注の獲得に成功した。

しかし、太田社長のなかには、新たな思いが生まれていた。
受託加工だけでなく、自社の名前で販売できる製品を持ちたい。そして、ものづくりを通じて、社会や地域に貢献したい。その思いが、後のモンスターウルフ開発へとつながっていく。

レンズ金型において国内最高レベルのRa0.8nm(ナノ)と表面粗さがRa1nmを切る、超鏡面研磨技術を持つ

LED照明事業の失敗が鳥獣害対策製品の開発につながる

自社製品開発のきっかけとなったのは、2008年に開催された北海道洞爺湖サミットだった。事業を通じて知り合ったエンジニアから、当時はまだ広く認知されていなかったLEDについて、「これから省エネルギー技術として普及する。取り組んでみてはどうか」と助言を受けた。

太田社長のチャレンジ精神に火が付いた。
LEDチップを調達し、自社でLED照明器具の開発に着手した。しかし、その後すぐに大手企業が相次いで市場へ参入。価格や販売力で太刀打ちできず、LED照明事業は大幅な赤字となった。「もうLED事業はやめよう」そう思いながらも、太田社長は、せっかく手掛けたLEDの技術を別の用途に生かせないかと模索し続けた。

当時、北海道ではエゾシカによる農作物被害が深刻化していた。そこで思いついたのが、LEDの強い光を利用してシカを追い払う装置だった。LEDは急速に点滅させることができ、強い点滅光を容易に生み出せる。その特性と音を組み合わせれば、野生動物が嫌がる装置をつくれるのではないか。一度は失敗に終わったLED照明の技術が、地域課題を解決する鳥獣害対策製品へと姿を変え始めた。

音とLEDの光でシカを追い払う「モンスタービーム」を商品化

2011年、太田精器は音と光で野生動物を威嚇する「モンスタービーム」を商品化した。
販売価格は約20万円。決して安価な製品ではなかったが、農地などを中心に約200台を販売したという。シカ対策に取り組むにつれ、現場からはクマやイノシシへの対応を求める声も寄せられるようになった。より広範な野生動物に効果を発揮するには、光と音だけでなく、動物が本能的に警戒する存在を再現する必要がある。そうしたなか、東京農業大学北海道オホーツクキャンパスでシカの飼育研究を行う相馬幸作先生との縁が生まれた。

2011年に商品化された「モンスタービーム」

天敵のオオカミに着目――「モンスターウルフ」開発の始まり

2016年、相馬先生から「捕食者の頂点はオオカミである」という助言を受け、太田社長はオオカミの姿を模した鳥獣害対策装置の開発に着手した。
こうして、「モンスターウルフ」の開発が始まった。
開発当初のモンスターウルフは、現在のような迫力ある姿ではなかった。構造は簡素で、威嚇の中心は音。デザインも十分とはいえず、改良を重ねながら毛皮を取り付け、オオカミに近い外観へと仕上げていった。しかし、そのユニークな姿は、当初なかなか受け入れられなかった。
「子どもだましではないか」
「思いつきでつくった、ただのオオカミの案山子だ」
効果を疑う声や、嘲笑するような反応も少なくなかった。

「オオカミの案山子」と笑われても続けた3年間の実証実験

購入してくれる顧客が見つからないなか、太田社長は試作機を車に積み、農家や農地を回った。

「とりあえず、3カ月置かせてください」費用を求めず、現場で試してもらう。効果を確かめ、課題を聞き、会社に戻って改良する。そうした活動を約3年間続けた。社内からも、「社長はオオカミの案山子づくりに夢中になっているが、大丈夫なのか」と心配する声が上がったという。

それでも、少しずつ変化が表れた。
設置から3カ月後、太田社長が「試作機を引き揚げましょうか」と尋ねると、農家から「効果があるようなので、もう少し置いてほしい」と言われるようになったのだ。机上の理論だけではなく、実際の農地で試し、利用者の声を聞きながら改善する。町工場ならではの地道なものづくりが、モンスターウルフの効果を磨いていった。

50種類以上の威嚇音を搭載し、野生動物の慣れを防ぐ

太田社長の改良は、その後も続いた。
野生動物は、同じ音や動きを繰り返す装置には次第に慣れてしまう。そこでモンスターウルフには、オオカミの咆哮だけでなく、犬の鳴き声、人の声、銃声など、50種類以上の音を組み合わせて搭載した。
センサーが動物を感知すると、LEDの目が赤く点滅し、首を左右に動かしながら、複数の音声を発する。
光、音、動きを組み合わせ、野生動物に対して繰り返し警戒心を与える仕組みだ。SNSなどでは「オオカミの案山子にすぎない」と批判されることもあったが、太田社長は改良を止めなかった。
現場での実績が積み重なるにつれ、メディアにも多く取り上げられるようになり、モンスターウルフの知名度は徐々に高まっていった。

世界各国から注目されるように

全国で高まるクマ対策需要――自治体や建設現場から問い合わせ

クマによる人身被害や市街地への出没が全国的な課題となるなか、モンスターウルフへの需要も急速に高まっている。
これまでの主な設置場所は、農地や果樹園、牧場などだったが、現在では自治体や建設現場、公共施設などからの問い合わせも増えているという。一方、住宅地に近い場所では、威嚇音による周辺への影響にも配慮が必要となる。そこで太田精器では、一定の方向に音を届ける指向性スピーカーの開発にも取り組んでいる。必要な方向に集中して威嚇音を発することで、住宅地や市街地に近い場所でも利用しやすくなると期待されている。

単に音量を大きくするのではなく、設置する環境や動物の種類に応じて製品を改良する。精密加工で培ってきた太田精器の技術力と、現場の声を重視する開発姿勢が生かされている。

様々な場所で活躍するモンスターウルフ

モンスターイーグルも開発、鳥獣害対策製品をさらに拡充

太田精器の鳥獣害対策は、モンスターウルフだけにとどまらない。
鳥への対策を目的とした「モンスターイーグル」も製品ラインナップに加わり、シカ、イノシシ、クマ、鳥類など、それぞれの動物や設置環境に応じた製品開発が進められている。出発点となったのは、大手企業との競争に敗れ、大幅な赤字となったLED照明事業だった。しかし、そこで得た技術を捨てるのではなく、北海道が抱える獣害という地域課題に結び付けたことで、新たな自社製品が生まれた。
失敗を次の製品開発へつなげ、自社の技術を社会課題の解決に生かす。その姿勢は、自社製品を持ちたいと考える多くの中小製造業にとっても、大きな示唆を与える。

「モンスターイーグル」も登場

北海道の町工場が自社製品で地域と人の安全を守る

警察官として人を守る仕事に携わり、その後は町工場の経営者として地域課題に向き合ってきた太田社長。正義感の強い太田社長が、クマやシカなどの被害から人や地域を守る製品にたどり着いたのは、必然だったのかもしれない。下請け型の組立加工から精密部品加工へ。受託生産から自社ブランドへ。そして、一度は失敗したLED技術を、鳥獣害対策という社会課題の解決へ。
モンスターウルフは、単なるオオカミ型の威嚇装置ではない。現場で試し、利用者の声を聞き、失敗しても改良を続けるという、町工場のものづくりの精神が形になった製品である。クマをはじめとする野生動物との共存が全国的な課題となるなか、太田精器の技術と発想は、これからさらに多くの地域で求められていくだろう。

今後生み出される、新たな鳥獣害対策製品にも大いに期待したい。

掲載会社情報

株式会社太田精器

株式会社太田精器

所在地
〒079-0304 北海道空知郡奈井江町字奈井江609番地
TEL
0125-65-2759
URL
https://www.ohtaseiki.com/
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