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レーザ微細加工の仕上がりを決める「種」の光 

レーザ微細加工の仕上がりを決める「種」の光 

株式会社QDレーザ

掲載企業株式会社QDレーザ

主要3品目
  • 小型可視レーザ

  • DFBレーザ

  • エピタキシャルウエハ

─光電融合で注目のQDレーザが持つ、シード光源メーカーというもうひとつの顔 

株式会社QDレーザは、いま国内・海外から多くの注目を集める半導体レーザメーカーだ。2006年、創業者であり現・最高技術顧問の菅原氏が、当時の富士通研究所からのスピンアウトベンチャーとして創業した。同社のコアは、MBE法(分子線エピタキシー法:本編で詳しく紹介)を用いた量子ドットの量産技術で、この技術を用いて2010年には世界初となる光通信用量子ドットレーザを製品化。社名の“QD”も、量子ドットを意味する英語“Quantum Dot”に由来するものだ。量子ドットを用いた半導体レーザは光電融合(CPO)の切り札として有力視されており、近年では生成AIの普及とともに同社への期待が一段と高まっている。

そんな同社の半導体レーザ製品群だが、通信用のものにとどまらず、可視光から微細(精密)加工に用いられる帯域まで幅広い帯域をカバーする。特に、微細加工などに用いられる1030-1180nm波長帯では、レーザ光の「種」となるシード光源用の半導体レーザ(DFBレーザ※①)を製品化。MBEを用いた緻密な膜によって作られた素子は高い発振安定性と性能を有し、国内外のユーザから高い評価を得ている(海外売上比率:約8割)。本記事では、レーザ微細加工に用いられるシード光源とその中でのQDレーザ製品の強みについて、レーザデバイス事業部長の大西氏に話を伺った。 

QDL製品がカバーする波長を示した図

※①:素子内に発光層と回折格子を備えた半導体レーザ。発光層で生まれた光が回折格子を通過することで、特定の波長の光のみが外部にレーザ光として放出される。極めて狭いスペクトル幅の安定した単波長光を出せることから、微細加工や非破壊検査などの産業用途でよく使われている。 

微細加工用シード光源の画像①

─発振安定性と“光の切れ味”が重要 

レーザ加工の仕上がりを左右する要素の1つに「レーザが光る時間の長さ」であるパルス幅がある。レーザが当たった材料は光を吸収して熱を持つため、光が当たる時間が長いと材料が溶けて切断面は荒れてしまう。このため、微細加工では主にピコ秒レーザというパルス幅の短いレーザが用いられる。ピコ秒ほどの短い時間では、材料が熱を持つ間もなく蒸発して除去されるため、切断面を綺麗に仕上げることができるという原理だ。 

そして、このようなレーザ光の特性を決めるのが「シード光源」だ。レーザ加工装置では、発振源となるレーザ素子の光をそのまま加工に用いるわけではない。シード光源と呼ばれる「種」の光を光増幅器に通して増幅することで、実際の加工に用いる出力のレーザ光を作り出す。わかりやすい例えで言えば、オーディオアンプのようなイメージだ。良い入力音源をアンプに通せば美しい音が生まれるように、加工用レーザでも元となる「種」が重要なのだ。同社が手がけているのはまさにこの部分で、レーザ素子単体やモジュール(ドライバ)など、それぞれの顧客のニーズに合わせた形でシード光源を販売している。 

シード光源の原理を示した図

「よいシード光源」のポイントとして、大西氏は次の3つを挙げる。 

  • 立ち上がりと立ち下がりが急峻なパルス(「一瞬だけ光ってスパッと消える」光であること) 
  • 単波長に近いスペクトル(加工に不要な波長の光を含まないこと) 
  • 常に同じ出力(パワー)と波長の光 
シード光源の理想的なパルス形状を示した図

「不要な波長の光や残留光も光増幅器を通して増幅され、レーザ光の一部として照射されます。加工に必要ないこれらの光も熱を生むため、このような光が発生しない光源が重要になります」と大西氏は説明する。不要な波長の光や残留光を含まないことで、レーザ素子が発振するときに内部でエネルギーを取り合わず、結果として出力や波長の安定性(≒加工の再現性)にもつながるという。 

同社製品はこれらの点で高く評価されており、「PRISM AWARDS 2017」をはじめとした国内外の各種賞を受賞している。中でも、超短パルスDFBレーザ「QLD106Gシリーズ」ではパルス幅15ピコ秒という極めて狭いパルス幅を実現。通常の計測器では測定すら不可能なほどの短いパルス幅ながら、高い出力安定性を有する。 

微細加工用シード光源の画像②

─MBEによる緻密な膜が作り出す、高性能な量子井戸がポイント 

では、このような質の高い光を生み出すためには何が重要なのだろうか。それが、レーザ素子を構成する「量子井戸」の質だ。レーザ素子では、電子と正孔(ホール)が素子内で再結合する時、電子と正孔のエネルギーの差(バンドギャップ)で発光が起こる。バンドギャップは、レーザ素子内で電子と正孔を2次元的に閉じ込める構造「量子井戸」の膜の厚みで決まるため、厚みが均一で質の高い膜を作れれば、波長や出力の安定した光が作れるというわけだ。 

MBE結晶成長装置

厚みが均一で質の高い膜を作るというこの点において、同社が採用するMBE(分子線エピタキシー)法による結晶成長は大きな強みを持つ。「MBE装置は、宇宙環境と同じくらいの高真空(分子が極めて少ない)の中で、蒸着に似た原理で原子を一層ずつ積んで成膜します。結晶成長時間はかかりますが、不純物の混入が極めて少ない緻密な膜を作ることができます」と大西氏。MBEでは異なる半導体層の切り替わりを作る際に物理シャッターで原子を切り替えるため、国内で主流のMOCVD・MOVPEと比べてシャープな(急峻な)界面を作ることも可能だという。これらのMBEの利点を活かすことで、同社では優れた光学特性のレーザ素子を作ることができるのだ。 

同社ではMBEによる結晶成長をコア技術と位置付けており、この部分に注力するために『セミファブレス生産体制』というユニークな生産方式を取っている。これは結晶成長と最終検査のみを社内で行うというもので、少ない設備投資で機動的な製品開発を行うことができるのが大きなメリットだ。「弊社ではカタログ品の販売だけでなく、お客様のニーズに合わせた特性を持つレーザ素子を開発することを強みとしています。セミファブレス生産体制をとることで、小さい会社規模でも品質を担保しつつニーズに合わせた製品作りが可能です」。 

微細加工用シード光源の画像③

─電流制御で繰り返し周期を自在に操ることで、非熱加工に最適 

ピコ秒パルスレーザではほんの一瞬しかエネルギーを伝えないため、何度も繰り返し照射することで少しずつ加工を進めていく。このため、この繰り返し周期を材料に合わせてどのようにコントロールするかという点も、実際のレーザ加工における生産スループット、すなわちタクトに直結する重要な要素になってくる。 

半導体レーザの一種である同社のDFBレーザは、この点でもメリットが大きい。「半導体レーザはドライバに流す電流のON/OFFでレーザ光を自在に制御できるため、1発だけ出すことも、kHz〜MHzオーダーの周波数で照射することも可能です」と大西氏は説明する。繰り返し周波数が装置によって固定となる他のレーザ方式に対して、材料に応じて熱を持たないギリギリのラインまで繰り返し周波数を上げてタクトを短くできる点もまた、半導体レーザが持つ大きな特長の1つだ。半導体レーザでは、レーザ加工における熱対策としてしばしば用いられる「バーストモード(間欠泉のように数発ずつ緩急をつけて照射する方式)」も外部機器不要で実現できるという。 

微細加工用シード光源の現状と今後について、大西氏はこう語る。「直近では半導体工場での加工や非破壊検査向けとしての需要が急増しているほか、製造業の現場ではガスや固体レーザから半導体レーザへの置き換えが進んでいます。増大する需要を捉えて、我々の強みである設計力を活かした柔軟なカスタマイズでニーズに応えていきます」。レーザ素子の競合は海外、特にドイツのメーカだが、近年ではこれらとの差別化を図るためにシード光源段階でのパワー向上などの細かな改良に取り組んでいる。顧客との距離が近い日本企業としての強みを活かし、「カタログに載らない部分のスペック・機能」を今後も重視していくという。

レーザ加工の質を大きく左右する「シード光源」。株式会社QDレーザは今後も、MBE結晶成長技術をコアに世界のレーザの「種」を作り続けていく。 

 参考:量子井戸と量子ドットについて

量子ドットと量子井戸の違い

本記事で紹介した「量子井戸」と、同社の出自の一部とも言える「量子ドット」。どちらもレーザ素子の中で電子を閉じ込めるための構造だが、その形と適した用途は異なる。具体的には、量子井戸が厚さ数nmの薄い膜で電子を閉じ込める(動きを2次元に制限する)のに対し、量子ドットは立体的な「粒」で電子を閉じ込める(動きをほぼゼロにする)。つまり量子ドットのほうが、電子をより強固に閉じ込められる構造だ。 

この閉じ込めの強さが、両者の特性の差につながる。レーザ素子は、電子と正孔(ホール)が上のエネルギー準位(励起状態)から下の準位(基底状態)へ落ちたあと再結合して発光するが、実際にはこのエネルギーの一部は光にならず、熱(フォノン)として捨てられてしまう。これがレーザ素子の発熱や、高温環境での効率低下の原因になる。 

ここで、量子ドットの構造の旨みが生じる。量子ドットのように電子が強く閉じ込められていると、電子が取れるエネルギーの状態は“飛び飛び”(離散的)になる。中間のエネルギー準位を経由できないため、電子は励起状態から一気に基底状態へ移るしかなく、フォノンとして逃げていたエネルギーまで発光に回ろうとする。加えて、周囲の温度が上がっても電子は決まった準位に留まらざるを得ないため、高温でも効率が落ちにくい。このため、量子ドットを用いることで「発光効率が高く、低消費電力で、高温でも安定して動く」レーザ素子を作ることができるというわけだ。この特長ゆえに、発熱の大きい集積回路のすぐ隣に光源を置く必要のある「光電融合(CPO)」の切り札として注目されている。 

量子ドットでは、高温でも安定して発光できる

加えて量子ドットレーザでは、ドットひとつひとつの大きさ(≒バンドギャップを決める要素)に製造上どうしてもばらつきが生じることから、複数の波長を含む光が出る。加工用途のレーザにおいては嫌われがちなこの性質だが、これを逆手に取ることで、1チップから櫛状に複数の波長を含んだ光を出す「コムレーザ」を実現できる。できるだけ多くの通信容量を稼ぎたい通信分野では、複数バンドを1素子で実現できるという点が、むしろ大きなメリットになるのだ。 

量子ドットによるコムレーザの実現

一方、加工・検査用のレーザには、現状では量子井戸のほうが適している。量子ドットは1粒に収容できる電子の数が限られるため、短いパルス電流を流しても発光が飽和しやすい。短パルスかつ高い光出力が求められる加工・検査用途では、パワーが足りないのだ。だからこそ同社は、量子ドットと量子井戸を用途ごとに使い分けているのだ。既存技術である量子井戸も、MBEで成長すれば他の成長法より高品質に作れる。ここが「量子ドットの会社」でありながら量子井戸でも強みを発揮できる理由とも言えよう。 

本格的な社会実装に成功すれば加工用レーザを大きく上回る莫大な市場規模になることが予想される量子ドットだが、現状は通信業界を中心とした顧客の困り事や相談を捉えながらの比較的小規模な開発だ。そして、遠くない将来に本格的な市場投入が始まる際の課題は大量生産体制の確保だという。開発と結晶成長をコアにしたセミファブレス生産体制をよりブラッシュアップし、巨大な海外市場に挑む同社の今後にも注目だ。 

製品情報

  • 1018 nm - 1122 nm, 1140 nm - 1188 nm DFBレーザ

  • 532​ nm, 561 nm, 594 nm 小型可視レーザ

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