業界特集
掲載企業国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研:AIST)
【第2回】表面改質とは? —表面状態のコントロールで、塗装や接着などの後工程の品質を高める
このたび国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研:AIST)の田嶌氏にご協力いただき、「表面改質とは?」「薄膜形成とは?」という技術の基本から「これらの技術を活用することでできること」に至るまで幅広くレクチャーをいただいた。この連載記事では、同氏に伺った内容をもとに、表面処理の概論から活用アイテムの研究事例までを余すところなくお届けする。前回記事では表面処理の目的と特徴、「表面改質」と「薄膜」の2つの分類、そしてそれらの要素技術に関しての産総研の研究体制をご紹介した。
第2回となる今回は、「表面改質」のポイントと最適なプロセスの選び方について実際の実験事例を交えながら詳しくご紹介する。
【この連載でわかること】
表面改質とは?
〜汚れ除去と濡れ性向上を実現するUV処理・プラズマ処理〜
効果的な表面改質とは? ―カギは「表面状態のコントロール」
まず、効果的な表面改質を実現するポイントとはどのようなものなのだろうか。田嶌氏は「均一な塗膜形成や高強度の接着を実現するためには、“表面状態のコントロール”が非常に重要です。そのため、薄膜や接着の研究においては、その前処理となる表面改質の研究も不可欠な要素と言えます」と話す。
後半ではその具体例として、ガラス表面に表面処理(プラズマ処理)を行い濡れ性の変化を測定する実験をもとに、表面状態の変化、つまり表面改質度合いが薄膜や接着の品質にどのような影響を及ぼすかを紹介する。

UV処理、プラズマ処理とは? ―表面汚れ除去と濡れ性向上を同時に実現する2つの手法
UV処理とは、基材表面に紫外線を照射することで活性酸素を作り出し、有機物の除去や官能基の付与を行う表面処理手法のことだ。波長の短い光、特に紫外線は大きなエネルギーを持つため、このエネルギーによって表面の分子結合(分子鎖)の一部が切断される。また、185nmや254nmといった非常に波長の短い(≒エネルギーが大きい)光を含む紫外線源では、大気に含まれる酸素分子も分解され、反応性が高い活性酸素となる。

切断された分子鎖は不安定な状態(フリーラジカル)となり、酸素や活性酸素と結びつこうとする。この過程で表面の有機物が二酸化炭素となって取り除かれる(脱離する)のがUV処理の原理だ。そして、切断された分子鎖に酸素や活性酸素が結びつくことで、基材表面には「官能基」と呼ばれる特定の分子構造ができる。UV処理によってできる官能基には水酸基(-OH)やカルボニル基(-C=O)などがあり、これらは親水性を持つ。そのため、濡れ性が向上するというわけだ。

プラズマ処理も似た仕組みを持つ。UV処理が紫外線光のエネルギーを用いて改質を行うのに対し、プラズマ処理ではプラズマに含まれる活性種で改質を行う。大気やガスに高電圧をかけプラズマ状態にすると、ガスが電離しイオンやラジカルといった反応性の高い状態(活性種)になる。これらが材料表面の分子結合に衝突することで結合を切断し、新たに結びつくことで官能基となる。プラズマ処理では、プラズマ化させるガスを変える(窒素やフッ素系ガスなど)ことで、濡れ性以外の働きを持つ(撥水性や自己接着性)官能基を付与することもできる。


ここで大きなポイントとなるのは、「UV処理もプラズマ処理も処理の目的は同じだが、効果には大きな違いがある」という点だ。UV処理は紫外線光が持つエネルギーで材料表面の分子構造を切断するが、この時に切断されるのは分子の結合エネルギーが比較的低い有機物の結合のみとなる(無機物同士の結合は、結合エネルギーが大きすぎて紫外線光では切断できない)。つまり、有機汚れのみを選択的に切断・除去することができ、基材へのダメージが小さい。
これに対してプラズマ処理では、非常に高いエネルギーを持つイオンやラジカルが基材表面に衝突することで、表面の分子構造の一部を物理的に「剥ぎ取る」。つまり、有機汚れだけでなく無機物(基材そのもの)もごくわずかに削っているのだ。このためプラズマ処理では短時間で高い効果を得られる一方、材質にとっては基材へのダメージも考慮に入れなければいけない。
ただし実際には、紫外線によって劣化を起こす材質(エポキシ樹脂など)はUV処理でもダメージが入るため、材質・特性に応じて使い分けや処理時間の調整が重要となる。

表面改質手法による効果とは?
〜実験データから確かめる選択のポイント〜
【実験】UV処理とプラズマ処理で水の接触角はどう変わる?
では実際の実験から、表面処理による改質効果を確認してみよう。これらの実験では、ガラス基板表面にUV処理とプラズマ処理を施し、水滴の接触角を用いて改質度合いを判定した。基材表面に付着した水滴の形状は、基材の表面自由エネルギー(≒固体に働く表面張力)と相関があることが分かっている。このため、液滴の接触角を測定することで、基材表面の濡れやすさを評価できるのだ。(接触角による評価について詳しくは第3回の記事を参照)
まずはプラズマ処理だ。ガラス基材にプラズマ処理を施すことで水の接触角が大きく低下する様子が写真からわかる。

続いて、UV処理での例を紹介する。田嶌氏はUV処理装置も複数保有・活用しているが、写真の装置は365nm単波長(UV-A)の紫外線のみを自然光の約750倍もの強度で照射することができるもので、ガラスだけでなくPETなどの樹脂基板も改質することが可能だ。そして、最大の特長は独自設計の自動搬送装置を組み合わせていることにある。これによって信頼性と再現性の高いデータ採取が可能となり、効率的な研究を実現している。

さらに、オゾン発生器を組み合わせたUV/O₃処理装置では、UVのみ処理と比べて、より高い改質効果が実現するという。オゾン(O₃)は非常に不安定な分子で、紫外線によって容易に活性酸素(O-)へと分解される。前述のとおり活性酸素は非常に反応性が高いため、UVのみの処理と比べて改質効果が高くなるという仕組みだ。
参考:(https://doi.org/10.1063/5.0153653)
ただし、オゾンは酸化力が強く人体に有害な物質でもあるため、UV/O₃処理装置を使用する場合は専用のオゾン除去装置が必要となる。このため設備面で少し大掛かりになるのが欠点ともいえ、改質時間の短さと設備の規模はトレードオフの関係と言えそうだ。


UV/O₃処理時間の増加に伴い、液滴は球状から扁平形状へと変化し、ITO/ガラス表面の接触角が大きく低下したことから、濡れ性が著しく向上したことが確認された。これは、表面の有機汚染物質の除去と極性官能基(OH基など)の形成により、表面自由エネルギーが増加したためと考えられる。以上より、UV/O₃処理はITO表面の親水化に有効であり、後工程における成膜均一性や界面密着性の向上が期待される。
この他に田嶌氏では、複数の表面処理手法による改質度合いの差が、接着強度にどのような違いを生み出すかの研究なども行っている。詳細と詳しい実験結果は今後論文発表予定とのことだが、熱処理や水熱処理といった表面処理手法を単独で用いるだけでなく、それらに加えてサンドブラスト処理などを組み合わせることで、未処理時に比べて大幅に高い強度を実現できるという。
まとめ:材質に応じたプロセス選択で「表面状態のコントロール」を!
表面改質のポイントは「表面状態をコントロール」することだ。有機汚れをなくし、官能基の付与で濡れ性を高い表面を作り出すには、UV処理やプラズマ処理といった手段が用いられる。プラズマ処理では短時間で改質効果を得られるほか、UVにオゾン(O₃)を組み合わせることでも同様に高い効果を得られる。
また、接着性・密着性を向上させるためには熱処理や水熱処理が有効との研究もある。単一の改質プロセスだけでなく、熱処理とサンドブラストの組み合わせのように複数手段を組み合わせることで、より高い改質効果を得ることができる。特に、接着強度を高めるカギは、①表面粗さ、②有機汚れ(油など)の除去、③表面酸化被膜の除去の3つと言える。
- UV処理:紫外線で有機汚れの分解と官能基の付与を行う
- プラズマ処理:プラズマで有機汚れ除去と官能基付与を行う
- 濡れ性向上のためにはUV・オゾンの組み合わせやプラズマ処理が有効(ただしUVのみでも照射条件で十分な効果は得られる)
- 産総研では自動搬送機付きのUV処理装置を活用し効率的なデータ取得を行う
- 接着強度向上の3要素:表面粗さ・有機汚れ除去・酸化被膜除去
- 熱処理や水熱処理では表面積の増加とアンカー効果で接着強度が向上
- 熱処理+サンドブラストなど複数改質手段の組み合わせで未処理比10倍超も
次回の記事では、「良い表面改質」を行うための重要な要素となる表面分析について、産総研が保有する最先端の表面分析装置などにも触れながら詳しく紹介していく。(第3回の記事はこちら)
