業界特集
株式会社倉元製作所
掲載企業株式会社倉元製作所
昨年で創業50年・上場30年を迎えた株式会社倉元製作所(宮城県栗原市)は、長年にわたって液晶基板製造を手掛けてきた実力派企業だ。液晶ガラスの研磨では当時世界最高水準の高平坦度を実現したほか、有機EL向けITO成膜では量産品として業界最高水準の低抵抗値を誇り、これらの技術が高く評価され国内大手テレビメーカー向けのパネルシェアでは100%を記録した実績もある。
そんな同社だが、時代の変化を受け2024年に液晶基板加工事業の中の薄膜成膜事業からは撤退。現在新たな中核事業とすべく研究開発を進めているのが、次世代のスマートエネルギーとして注目されている「ペロブスカイト太陽電池」だ。同社では現在ペロブスカイト太陽電池の製造ラインを構築している段階で、高品質なパネルを安定的に供給するための各種研究開発に取り組んでいる。
「塗って作れて、薄くて軽い」次世代の太陽電池―ペロブスカイト太陽電池とは?
●「ペロブスカイト」とは?
ペロブスカイト太陽電池とは、「ペロブスカイト」と呼ばれる特殊な結晶構造(ABX3)を持つ化合物を発電層に用いる太陽電池で、桐蔭横浜大学の宮坂力教授によって発明された。「ペロブスカイト」という名称はもともと灰チタン石を指すが、類似の結晶構造を持つ化合物はほかにも存在するため、現在では同様の結晶構造を持つ化合物までを総称して「ペロブスカイト」と呼ばれている。

● 製造・材料コストが小さく、従来のシリコン太陽電池比で約10分の1
ペロブスカイト太陽電池も従来のシリコン太陽電池も、光エネルギーの吸収によって生じた電子と正孔(ホール)を電極に移動させることで発電する基本原理は同じだ。しかしシリコン太陽電池では、電子と正孔を移動させるために用いる2つの半導体(p型・n型)の製造工程が非常に煩雑であり、高温や真空環境が必要となることから設備も大規模なものとなる。一方、ペロブスカイト太陽電池では材料を溶解してパターニング・塗布・印刷するだけで製造が可能なため、製造コストが大幅に低減できる可能性がある。主原料となるヨウ素も国内では安価で手に入るため(※日本は世界第2位のヨウ素生産国)材料費もシリコン太陽電池に比べて大幅に安く済むのも大きなメリットだ。製造費と材料費のどちらも安価なことから、シリコン太陽太陽電池に比べてトータルで約1/10のコストを実現できると期待されている。
● 軽くて曲がり、少ない光でも発電可能
ペロブスカイト太陽電池の単位発電量当たり重量は約2.5g/Wと、シリコン太陽電池(62.5g/W)に比べて圧倒的に軽い。また発電層が薄い膜によって作られているため、厚さも1mm程度で自在に曲げて(※フィルム型の場合)設置することもできる。 そして、最大の特長は「低照度で発電ができる」点だ。従来のシリコン太陽電池では難しかった弱い光や散乱光でも電力を生み出せるため、薄型軽量という特長との組み合わせで、室内や窓・壁などでの活用が期待されている。変換効率も約20%程度と、従来のシリコン太陽電池に匹敵する性能を有している。

● 社会実装の最大の課題は「フィルムの耐久性」
次世代の万能電池として期待がかかるペロブスカイト太陽電池だが、社会実装における目下最大の課題は耐久性の低さだ。ペロブスカイト太陽電池には封止をガラスで行う「ガラス型」とフィルムで行う「フィルム型」の2種類があるが、耐久性の高いガラス型でも製品寿命は5~7年、フィルム型に至っては約1年と従来型の太陽電池と比べて大きく劣る。セルが空気中の水分や酸素によって劣化を起こすため、フィルム性能と封止技術で「いかに空気に触れない状態を長く保つか」が業界全体の大きな課題となっている。


世界の先進技術と日本の製造力を融合させ、
社会実装を目指す―倉元製作所の独自の強み
日本の研究者によって発明されたペロブスカイト太陽電池だが、社会実装領域ではガラス型を中心に中国が一歩先を行っているのが現状だ。しかしながら、倉元製作所ではこの状況さえも強みに変えようとしている。「私は中国福建省で生まれ20歳の時に来日しました。そのため、中国の研究者や企業に幅広い人脈を持ちます。彼らの中にはMITやハーバードなど名だたる大学で実績を積んだ一流の研究者も数多くいます」と同社代表の渡邉氏。同氏のバックグラウンドを活かしグローバルにアプローチすることで、国内外問わず優れた技術を積極的に取り入れた製品開発を進めている。
国外技術を取り入れると言っても、同社が目指すのは単なる「技術の横流し」ではない。同社には長年のガラス基板製造で培った精密加工や成膜といった製造ノウハウがある。これらの知見と海外の先端技術を融合させ、さらに日本企業が強みとする品質保証やアフターケアも組み合わせることで「Made in Japan」の製品としてペロブスカイト太陽電池を普及させることが同社の目指す形だ。同社ではパートナー企業と連携・支援のもとガラス型とフィルム型の両方を生産できるラインの準備を進めており、これは国内企業でも有数の規模といえる。寿命面で実用化に比較的近い段階にある(※注)ガラス型の生産体制も確保することで、より幅広いニーズを集めるのが同社の狙いだ。
また同社では過去に、産総研・金沢大学との産官学連携で有機薄膜太陽電池(OPV)の生産と実証実験に取り組んだ実績もある。有機薄膜太陽電池そのものは実用化には至らなかったが、材料を塗布して製造する点ではペロブスカイト太陽電池と同様であるため、この際に蓄積された製造ノウハウを活用できるのも同社ならではの強みだ。
薄型軽量・低照度発電を活かして細かなニーズを掴む―
倉元製作所が目指す社会実装の形
ペロブスカイト太陽電池は、建築物に載せる発電パネルとしての用途が期待されている。従来の太陽電池パネルを屋根に載せるためには重量に耐える専用設計が必要となり、設計や建築コストが増大する。また、倉庫やカーポートなどの簡易な建築物への設置や既存建物への後付け設置が難しいという課題もある。薄型軽量のペロブスカイト太陽電池の実用化に成功すればこれらの課題が解消することが期待されており、実際に同社に対してのサンプル品提供要請でも最も多い利用用途だという。
建築物への用途のほかにも同社が社会実装のターゲットとして見据えているものがある。それが、従来のシリコン太陽電池では対応できなかった”すきまニーズ”だ。「薄く軽量で室内でも発電できるという特性を活かせば、小型家電などに組み込んで利用できると考えています」と渡邉氏。例えば、電源を引き込めない場所に設置された防犯カメラやIoTセンサーにペロブスカイト太陽電池パネルを組み込むことで、電池交換の手間が無いメンテフリーな屋内インフラが実現する。ほかにも、アウトドアや災害対策向けに利用されるポータブル電源向けの充電パネル(現在はアモルファスシリコン太陽電池などが主流)をペロブスカイト太陽電池に置き換えることで、薄さや軽さを維持したままより高い変換効率を実現できる可能性がある。「防犯カメラやポータブル電源のほかにも、ノートPCやスマホにペロブスカイト発電シートを張り付けることで、バッテリーが切れそうなときに緊急の充電ができるようになるかもしれません」。家電事業も営む同社ならではの視点で、社会実装の先で生まれる需要も見据えて鋭意開発を進めている。
量産技術まではほぼ確立しているペロブスカイト太陽電池を市場投入するには「最後の砦」とも言うべき寿命問題の克服が不可欠だ。そこで同社ではフィルムとその封止技術に強みを持つ材料メーカー・研究機関とのコラボレーションを求めている。また、実際の商品化に向けて用途開発を行うパートナーも募集中だ。「倉元製作所だけで考えていても、市場とずれた方向に行ってしまうこともあるかもしれません。読者の皆様が得意とする技術や知見を、ぜひ取り入れさせてほしいです」と渡邉は呼びかける。
日本発の太陽電池技術を、国内製品として普及させるために―倉元製作所は、長年磨き上げた成膜技術とグローバルなネットワークを活かして今後もペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けて邁進していく。
※注 実際に中国ではガラス型ペロブスカイト太陽電池の量産がすでに進められており、政府補助金の効果もあり大規模な社会実装が実現している。
