成長企業の経営戦略
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八戸から世界の海へ 飽くなき技術への探求心が、世界最大級のステンレスケミカルタンカーを生み出す
北日本造船株式会社
掲載企業北日本造船株式会社
漁船の修理から始まった造船所がケミカルタンカーで世界トップクラスへ
青森県八戸市に本社を置く北日本造船株式会社は、関東以北では最大規模の造船メーカーである。1969年に創業した同社は、もともと漁船を中心に修理・製造を行っていた。1990年頃から一般商船へシフトし、LPGタンカーや冷凍運搬船などのニッチ分野で技術力を高め、2000年代以降はケミカルタンカーの建造に本格的に取り組んできた。現在では、同分野において世界トップクラスのシェアを誇る。
同社がケミカルタンカーに舵を切った理由は、他社が手を付けない難易度の高い分野であったためである。ケミカルタンカーは酸などの化学物質を運搬する船舶であり、ナフサを運ぶタンカーでは塗装鋼材が使用される場合もあるが、ステンレス製タンクを採用することで、硫酸をはじめとする劇物など幅広い貨物への対応が可能となる。一方で、ステンレスは溶接が難しく、危険な化学物質を扱うため極めて高い品質管理が求められる。さらに構造が複雑で手間がかかることから、多くの企業にとって参入障壁の高い分野である。


昨今、大型船建造では中国・韓国の台頭が著しく、圧倒的なシェアを占めている一方で、中小型船型であるステンレスケミカルタンカー分野では、依然として国内建造のシェアが高い。現在では中国でも建造可能な企業が現れ始めているものの、いち早くこのニッチ分野に進出した北日本造船は、技術蓄積の面で高い優位性を維持している。
「我々は技術的に難易度の高い船に挑戦し続けています。複雑な構造やステンレス配管などには経験とノウハウが必要とされますし、確実に効率よく作るというノウハウも持っていることが我々の最大の強みです」と話すのは、代表取締役社長 根城信吾 氏だ。決められたドックの大きさで、より付加価値が高いものを目指した結果が、技術力を要するケミカルタンカーだったのだ。
ものづくり日本大賞において経済産業大臣賞を受賞
同社は日本製鉄の協力のもと、二相ステンレス製タンクを備えた4万トンクラス(全長183.8m、幅29.2m、型深さ16.5m)の世界最大級のステンレスケミカルタンカーを開発した。二相ステンレスの採用により軽量化と燃費向上を実現するとともに、ニッケルやモリブデンといったレアメタルの使用量を大幅に削減し、素材コストおよび調達リスクの低減を図っている。

(全長183.8m、幅29.2m、型深さ16.5m)の
世界最大級のステンレスケミカルタンカー

レアメタルの使用量を大幅に削減した二相ステンレス
これまで二相ステンレスは造船分野での実績が乏しかったが、同社は高度な溶接技術を確立した。船舶では振動による溶接部の損傷が課題となるが、特に劇物を輸送するケミカルタンカーでは安全性の確保が不可欠である。こうした高難度のステンレス溶接技術は、まさに同社の中核技術の一つである。
さらに、スクリューシステムや船体形状の最適化、風力アシスト推進装置、電子制御エンジンの導入により、既存燃料である重油の利用効率を最大化した高い燃費性能を実現した。また、タンクの波形隔壁構造を垂直式から水平式に変更することで、ユーザーのタンク洗浄時間を大幅に削減するなど、顧客ニーズに応じた高付加価値船を実現している。これらの成果が評価され、第10回ものづくり日本大賞において経済産業大臣賞を受賞した。

(製品名:ゲートラダー)

(製品名:ヴェントフォイル)
更なる効率化と技術の蓄積で、日本を代表する造船所を目指す
造船には多くの人手と広大な敷地が必要となる。同社では現在、協働ロボットを活用した溶接の高度化に取り組んでおり、今後はAIを組み込んだ溶接機の共同開発を視野に入れ、さらなる効率化を目指している。
造船は一品一様の製品であり、部材も大型であることから、一般的な製造業のようなライン化が困難である。現在はブロックごとに分割して製造し、本社で連結して組み立てているが、敷地拡張により半完成状態での艤装作業を可能とすることで、リスク低減と生産効率の向上が期待される。近隣に理解を得ながら土地を確保することで、更なる効率化を目指している。また、外注比率の低減や内製化の推進により、コスト競争力の強化にも取り組んでいる。


ホルムズ海峡をはじめとする国際情勢の不安定化により、海上輸送の重要性は今後さらに高まると見込まれる。鋼材価格の上昇といった課題はあるものの、ケミカルタンカーの需要は世界的に拡大していく見通しである。同社では将来を見据え、メタノールなど重油代替燃料に関する技術的知見の蓄積も進めている。
「北日本造船はケミカルタンカーを基盤に、今後も船づくりを続けていきたい。メイドインジャパンの追い風に乗りたいですよね。より高効率で高度な技術を追求し、技術力で日本を代表する造船所を目指す」と根城社長は語る。
八戸から世界の海へ
地域との共生を目指す
「北日本造船は青森県八戸市を拠点に、地域とともに船づくりを続けてきた造船所です。造船は地域に支えられた総合産業であり、多くの地元企業や協力企業に支えられています」と根城社長は語る。
同社は地域社会の一員として、地元の祭りやイベントへの参加、プロスポーツチームの支援などにも積極的に取り組んでいる。造船所は普段見ないような大型建造品が立ち並び、迫力満点。地域からの工場見学も受け入れており、大盛況であるという。「当造船所では、ブロック製作だけでなく配管など造船の工程をさまざまな角度から見ることができます。ぜひ完成形だけではなく、船ができていく過程を見てほしい」


