業界特集
アルム株式会社
掲載企業アルム株式会社
図面や3Dモデルを渡せば、AIがNCプログラムを書き、ロボット搭載のマシニングセンタで加工まで済ませる。石川県金沢市のアルム株式会社が手掛けるのは、AI駆動の完全自動マシニングセンタだ。形状把握・ツールパスの生成から、段取りと加工・計測まで。加工の全工程に、ほとんど人が介在しない新たな機械加工とは―。2026年10月に発表された税抜3500万円のエントリー機種「TTMC Origin」の情報も交えて紹介する。
図面を読み、NCプログラムを作る
―加工メーカーの買収で、現場の知見をAIに落とし込み開発
同社によれば、金属の切削加工には合計12の工程があるというが、最初に取り組んだのはソフトだけで完結する最初の3工程だ。図面やCADデータを読んで理解し(図面理解)、CAMでツールパスと加工条件を作り(加工設計)、NCプログラムを書く。同社はまず、この3つを実現する製造AIを開発した。

ここまでの話を聞くとIT企業のように見える同社だが、実は同社はそうではない。祖業はFA受託開発で、かつては自動車メーカーなどの工場の生産ラインに自動機を納めていた。リーマンショックで売上が落ち込み、部品の供給も滞ったことで、サプライチェーンの抜本的な見直しの必要性を強く意識したという。これがきっかけとなって、現場の知見をソフトウェアで”アーカイブ”する、製造AIシステムの構想が生まれた。
現場の知見を取り入れるために、同社はまず加工メーカー(現:MMOP)を買収してノウハウを集めた。だが実際に開発してみると、「図面を読み解く」部分で課題が生じた。そこで当時のTwitter(現X)で形状解析の技術を持つ人を募ったところ、名乗り出たのが、現在CTOを務める神戸大学特命教授の西田氏だったという。
西田氏の技術によって、例えば「ここは丸い穴だ」といった具合に、面と面の繋がり(トポロジー)からAIが形状を認識できるようになった。この形状認識技術が、同社の製造AIと市販のCAMの最大の違いだという。形状に合わせて最適なパスや加工条件を出せるかどうかは、実際の加工を行う際に工具寿命、加工効率などの面で大きな違いとなる。開発では、実際に数えきれないほどの工具を折りながら、最適な条件を見つけていった。「削ったことがない、経験がない人に、部品を削るための AI を作るっていうのは無理ですね。ソフトウェア会社には無理だと思います」とソフトウェア開発グループ ゼネラルマネージャーの坂下氏は言い切る。

実際にAIで切削加工を行うところまで実現した「TTMC」
―ハードウェアにはスギノマシンらと共同開発した、専用マシニングセンタを使用
こうして開発が進められてきた同社の製造AIだが、最初に開発したソフトでできることはあくまで机上の加工設計までだった。そこで、その後に続く段取りや加工を担うシステム設計にも取り組んだ。その結果生まれたのが、今の同社のコア製品「TTMC」だ。
TTMCは、同社がこれまでに開発してきた製造AIとは異なり、フィジカルAI分野のAIだ。専用のハードウェアとAIの組み合わせで、実際の切削加工までを自律的に行う。フィジカル領域までをカバーにしたパッケージに仕上げたことで、ソフトだけではなかなか進まなかった少量多品種の現場の自動化を、一気に手軽なものとした。

切削加工まで自律化する「TTMC」
ハードウェアは、スギノマシン、ニデックオーケーケーの2社とタッグを組み、同社のマシニングセンタに様々な自動機能を付加した専用加工機を販売する。加工機には段取り替え用のロボットや、工具60本をセットできるATC、机上計測用の測定機などが全て集約されており、加工を指示してから完成品を受け取るまで、人間が介在する余地はない。この考え方を坂下氏は、「本当に自動化しようと思うと人を排除するっていうのが基本になります」と説明する。人間の操作は最初の指示だけにとどめることで、AIが最適化した加工計画を最大限に活かす構成となっているのだ。


また、TTMCにおいて頭脳となる部分は「TTMC Brain」と呼ばれ、複数の仕組みの異なるAIが分担して処理を行う。「LLMは正確性って言ったらやっぱり今ひとつなので、加工パスを出すっていうようなところにちょっとLLMだけを使うっていうのはやっぱりできないんです」と坂下氏。AIの得意不得意を考慮し、空間形状の認識、形状理解、工程設計、加工条件設定、NCプログラムの生成などの個別要素は、「ChatGPT」のようなLLMではなく、グラフニューラルネットワークとロジックベースの演算を組み合わせたAIを用いている。計算資源についてはMicrosoftと連携を結び「Azure」のサーバーで行なっているといい、気になるAIの利用費用については「当面は同社が負担予定」とのこと。ひとまずは装置を購入すれば電気代・消耗品代だけで利用可能だ。
「製造能力を売る」TTMC、すでに40台以上の受注を獲得
―導入費用を3年で回収する試算も
自動ロボット付きの加工機の価格は、一式で約3.5億〜3.7億円。通常のマシニングセンタのおよそ5倍と、決して安くはない。だが、2025年に発売されてまだ一年余りで、すでに40台以上の受注が決まっているという。
「要は製造能力を買ったんだということで、ご採用いただいています」と坂下氏はその受注の理由を説明する。TTMCを導入することで人的リソースに余裕が生まれれば、従来は受けられなかった案件を引き受けたり、人間がより高付加価値なアイテムに注力して単価を上げたりすることができる可能性がある。すでに導入した顧客のほとんどはこうした「共存」方向でTTMCを活用しているといい、装置の販売の際にも「人を減らすために使わないでください」と強調しているとのことだ。
あくまで試算ではあるが、同社によれば、TTMCの導入によって1日あたり70万円程度の生産性の向上が見込めるという。これを続ければ、導入費用3.5億円は「3年で回収できる」計算だと顧客に説明しているとのことだ。
初期費用で躊躇する読者に朗報だ。同社はTTMCの技術をより手軽に体感できる普及機「TTMC Origin」を2026年10月に発表した。ファナックのロボドリルをベースに、TTMCの技術を活用して新たに作られたAI「KAYA」を搭載した同機の価格は、税抜き3500万円と、一般のマシニングセンタと同水準に抑えられている。

税抜3500万円で製造AIの導入を可能にする
「マシニング操作ができない人でも会話をしながら、AI が人間に代わってマシニングセンターを操作してくれる装置になります」と坂下氏。原点出しや工具長の測定も自動で、人が受け持つのは材料と工具の取り付けだけになるという。また、130カ国の言語に対応したインターフェースが搭載されており、外国人研修生の受け入れにも活用しやすい。発売は来春予定だ。

会話を通じてマシニングセンタの操作を支援する

現状はアルミ専用機だが、ソフトアップデートで今後は対応ワークも拡充予定
―全国のTTMCをネットワークで繋ぎ、受発注システムを作る構想も
では、TTMCではいま、どこまでの加工ができるのだろうか。
現状ではプレートやブロックなどの加工に対応しているといい、六面を仕上げた材料を人間がセットするところから加工を始める。ワークは◻︎200mm以下のアルミ専用で、テーブルを90度ずつ回す割り出し加工にまで対応している(同時5軸は現在は非対応)。
現在は開発中の材質や形状も多いが、2〜3ヶ月に1回以上予定されているソフトウェアアップデートによって、順次対応可能なワークの種類が追加されていく見通しだ。すでに鋳物などの難しい材質への対応にもチャレンジしているといい、坂下氏は「時間とともに賢くなっていきます。 買って終わりじゃないです」と意気込む。2026年10月には神戸製鋼所、京セラなどと「製造AI×アベンジャーズ」を立ち上げたといい、今後はこうした大手とも連携して、より多くの加工ノウハウを学習させていく狙いだ。これに合わせて、TTMCの大型化も目指す。

さらに、全国の企業に導入されたTTMCをネットワークで接続する「MMOP」構想もある。これは顧客が図面をアップロードすると、MMOPに参加する企業に同社から作業が割り振られるというもの。受注から加工までをAI駆動の加工機が自律的に行うことで「装置を置いておくだけで仕事が入ってくる」という状態も、今後売りの一つに掲げていくという。
長らく実現していなかった、少量多品種アイテムの生産自律化。だがTTMCの登場によって、その概念も変わりつつある。どこまでをAIに任せ、どこからは人が担うのか。その線引きをしなければいけない時代が、いよいよやってきた。
製造現場の新しい未来をどう描くのか。AIと人間の共存のあり方を考えるのは、読者それぞれの役割だ。
