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【座談会】医療分野で活躍するものづくり企業らの挑戦に要注目

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 医療は、人類がこの社会に存在し続ける限り需要がなくならないものであり、むしろ少子高齢化の進む日本においては、ますます発展していくだろう分野です。そして、医療が人体というフィジカルな存在が相手であることからも、今後も長きにわたりものづくり技術が頼りにされ続けるということには変わりありません。

高山 隆志 氏
(株)高山医療機械製作所
代表取締役社長
岩﨑 基造 氏
(株)イワサキ
代表取締役社長
高山 成一郎 氏
KOTOBUKI Medical(株)
代表取締役社長
中尾 浩治 氏
(一社)日本バイオデザイン学会
特別顧問 (ファウンダー)

医師の下に足しげく通う地道な営業活動とニッチへの挑戦

 手術器械の開発・製造を手掛ける株式会社高山医療機械製作所(東京都)は、社員数30人強と中小規模の企業でありながら、国内外の脳神経外科を中心に「タカヤマ」の名が知れ渡る。海外を視野に入れた営業は2016年ごろから開始。それから8年ほど経過した今、同社の医療器具は世界67カ国で使用されている。

 先代は、大手メーカーから依頼される手術用鉗子の製造を長いこと手掛けていたが、ある時突然、製品の販売が終了するとともに生産も終了。そこで売り上げの大半を失ったそう。

 その後は、さまざまな企業や病院から依頼がある試作に対応していたものの、なかなか収益に結びつくことがなかったとのこと。ところが、同社代表取締役社長の高山隆志氏は、その活動が「非常に面白かった」と言う。その経験と、それによる知見の積み重ねが結果的に顧客を開拓していくことになり、今につながっていったということである。

 病院に勤務する医師たちとは、器具の試作やワークショップを通じて地道に情報交換を重ね、少しずつ信頼を獲得し、後の取引につなげていった。そうして、一度取引が決まれば、その後は長年の付き合いとなる。このような「泥臭さ」のある営業文化は日本だけなのかと思いきや、「むしろ欧米の医療従事者の方が、そういう付き合いを好むように思う」と高山隆志氏は話す。

 併せて、同社では製造業としてはいち早く3D設計を導入しており、最新鋭の設備への投資も惜しまない。さらに大学院卒(修士号および博士号取得者)の採用や育成にも力を入れる。このような次世代の同社を支える技術基盤強化も手抜かりなく行う。

 これまで自社で開発・製造する医療器具はOEMで、製品は商社を仲介して販売してきたが、現在は自社販売の比率を増やしていこうとしているところである。同社が扱うニッチな分野の医療器具は非常に多品種におよび、需要も不安定であることから、不良在庫を抱えやすいなど商社の在庫管理面にも大きな負担が及ぶ。そうした商社のビジネスモデルの弱点を見抜き、同社では多品種少量生産で在庫負担を減らす製造工程の構築に取り掛かった。生産スピードの速い設備を取りそろえてデジタル化させ、自社販売への道を切り開いた。

 ビジネスを自社販売に大きく舵を切ることで、これまでの同社の顧客がライバルにもなり得る。それについて高山隆志氏は、「既存の分野で競争するのではなく、他社では技術力的に取り組みが困難かつ未踏の新分野での挑戦に常に注力し、かつスピード感をもって取り組んでいる」という。同社が既に開拓した分野について後続の企業が出てくることもウェルカムであるとの考えである。

医療現場のデジタル格差を減らすための挑戦

 株式会社イワサキ(大阪市)は、医療施設用家具、教育施設用家具、オフィス家具などを手掛ける、金属加工を得意とするメーカーである。医療分野のものとしては、病床棟向けテーブルやカートなどがある。

 同社では、設計から加工、組み立てまでを一貫して行い、かつ小ロットから大量生産まで、幅広く対応してきた。また同社では社内の設計から生産までのDXや3D化に取り組む中で、SaaSの在庫管理システムを導入。発注業務にかかっていた負荷の大幅削減に成功したとのことである。

 現在は、同社の顧客でもある病院向けにも、月極で利用できるSaaS在庫管理システムを展開。「現場によっては在庫管理も手書きのメモや伝票などを中心にやり取りが行われているなど、製造業からは考えられないほどに業務のデジタル化が浸透していない」と同社 代表取締役社長である岩﨑基造氏は話す。それが、現場で働く人たちの大きな負荷になってしまっている現状であるとのことである。

 医療現場で働く人たちは常に多忙であり、かつITリテラシーは高いとはいえない。そのため、ITツールとしての導入障壁が低いことも重要である。その点、SaaS式で初期投資不要でかつ廉価なライセンス費用であると共に、現場の人たちの基本的な操作は、RFIDタグを活用することにより、特別な教育なども一切必要がない。そして、「実際に導入した医療現場からも、仕事が楽になったと大変好評」と岩﨑氏は言う。

 同社では、システムを販売することでのライセンス収入などの他、物品管理に使用されるRFIDタグの収益も見込む。

SDGs時代の新領域開拓に挑戦

 KOTOBUKI Medical株式会社(埼玉県)は、「町工場発ベンチャー」として2018年に設立された企業である。同社では、腹腔鏡手術用のトレーニングボックスやこんにゃく製の臓器模型を用いる外科手術用習キットを手掛けている。現在、売り上げは順調に成長しており、現在は初期投資フェーズを抜け出して黒字ということである。

 同社の前身は、同社代表取締役社長の高山成一郎氏の父が創業した、部品加工業の寿技研。かつては、「ミニ四駆」のタイヤ製造も手掛けた。やがて高山成一郎氏が家業である寿技研の社長を継ぐことになったが、2008年のリーマンショックで会社経営は苦境を迎えてしまう。このタイミングで、これまで顧客からの受注、いわゆる「下請け」での売り上げ依存での事業を改めようと、自社製品開発への取り組みを開始した。

 自社製品開発で試行錯誤する中で、医療機器メーカーと縁があり、腹腔鏡手術トレーニングボックス開発を手掛けることになった。それが功を奏し、売り上げを伸ばすことができたのだという。さらに手術トレーニング全般で使用できる消耗品を提供しようと、こんにゃく製臓器の発想が湧き、その開発を開始。後にKOTOBUKI Medicalの設立に至る。

 「手術トレーニング用品の市場規模はあまり大きくはない」(高山成一郎氏)と言い、ビジネス規模拡大や継続における今後の課題も残る。しかし「SDGsへの取り組みの広がりや、医療現場における倫理意識向上を背景に、特にこんにゃく製臓器模型の需要は今後ますます高まる」と高山成一郎氏は見ている。今後も、医療従事者に寄り添い、長年培った精密加工の技術を生かし、手術の技術向上を支援していきたいということである。

医療分野の事業のタマゴ育成に挑戦

 中尾浩治氏は、医療機器関連企業やベンチャーの社外取締役などを務めながら、一般社団法人日本バイオデザイン学会の特別顧問として「バイオデザイン」の活動に取り組んでいる。過去の中尾氏は、かつてテルモ株式会社 代表取締役会長、日本医療機器産業連合会会長を歴任した。

 バイオデザインとは、米スタンフォード大学が開発した医療機器開発人材育成プログラムのことであり、欧米の医療系大学を中心に広まっている取り組みである。国内では、東北大学と東京大学、大阪大学、広島大学が2015年から導入している。

 ここでいう「バイオ」は「医療機器、もしくはメディカルテクノロジー」であり、「デザイン」は「考案・企画」のことを示すと中尾氏は説明する。バイオデザインの特色は、「医療現場のニーズから出発すること」であるという。このプログラムでは、参加者が手術室やリハビリ室など実際の現場に赴き、そこにある課題や要望を探り出して、それが解決可能な技術開発を検討していく。最終的には事業提案としてまとめていく。4人1組のチームで、10カ月間のプログラムに取り組んでいく。

 ニーズ自体は非常に件数が多く、「200件ぐらいの中から、社会に与えるインパクトが大きいものなど、取り組みの価値が非常に高いものを1~2件ほどに絞る」と中尾氏は説明する。また特許申請は必須になっている。このプログラムでは「事業化する」ということが最重要である一方、事業提案としてま
とめることは非常に難しいもので、「すんなりとはいかず、課題抽出から事業プランまでの間を何回も行き来することが多い」と同氏は言う。

 参加者の平均年齢は30代前半で、医師が目立つ。2015~2019年の実績として、41人の修了生を輩出。この期間の特許申請は14件におよび、起業に至ったのは6社。ベンチャーキャピタルからの出資総額は4.1億円にのぼった。

 医療分野に限らず、日本国内のベンチャーの起業率は「欧米に比べて半分程度」と中尾氏。「しかし我々の場合、実際のベンチャーに出かけるエクスターンシップというプログラムを設けており、1~2週間の体験を経ると『起業したい』という気持ちが湧いてくる人がほとんどという結果。すなわちやり方次第では、起業率は大きく変わるというのが我々の経験からの考えだ」。今後もメドテックのベンチャーの推進を支援していきたいということである。

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