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鉄基厚板アモルファス、さらに世界初の高Bs低鉄損コア材「HLMET®( ヘルメット )」がモータの未来を変える 日本の中小企業3社が力を合わせて、技術変革に挑む――ネクストコアテクノロジーズ
ネクストコアテクノロジーズ株式会社
掲載企業ネクストコアテクノロジーズ株式会社
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従業員数
21人
既存モータの課題を解決するモータコアを開発
日本の中小企業3社がその力を結集して、世界の常識を覆そうとしている。ネクストコアテクノロジーズは、2022年にHILLTOP株式会社、BIZYME株式会社、株式会社小松精機工作所が合同で立ち上げた会社だ。2023年にはモータ効率の大幅改善・小型高速化を実現する「アモルファス積層コア」の量産技術を世界で初めて確立。2024年アモルファスともナノ結晶材とも異なる世界初の素材である高Bs低鉄損コア材「HLMET®( ヘルメット )」の量産化に成功。藤井精工グループと資金業務提携を行い、2026年には佐賀県伊万里市に敷地面積29,000平方メートルの新規工場が始動する。ついに本格的に市場へと乗り出す準備が整っている。
厚板鉄基アモルファス積層コアの量産化に成功
モータの課題は電力ロスだ。世界中のモータの効率を1%改善するだけで、原子力発電所が12基分に相当する省エネが可能と試算されている。モータの効率化は膨大な省エネ効果を生み出すのだ。モータの省エネ化と同時に求められるのは小型高出力化だ。だが小型高出力化すればするほど高回転が求められるが、その結果、モータが発熱し、ロスが増えてしまうという矛盾を抱えている。
この課題をクリアすべく、研究が進められているのがアモルファスだ。アモルファスとは、金属を超急冷凝固させることで生み出された非晶質素材のことだ。磁気特性に優れ、通常モータに使用されている電磁鋼板に比べ鉄損(電力を磁気に変換する際に熱となり失われる損失)を1/10以下に抑えることができる。夢のような素材だが、アモルファスはこれまでその製造工程のために薄くしか製造できず、積層の際に接着剤などを用いるため、理論上占有率は90%が限界とされていた。モータコアとして使用するためには占有率を最低でも92%以上にする必要がある。しかし、ネクストコアテクノロジーズが生み出した鉄基厚板アモルファスならば、占有率94%を達成。例えば5kWクラスのモータの場合、既存の電磁鋼板では最高効率90%に対して、最高効率98.3%と、ロスを2%未満に抑えることに成功している。

加えて、アモルファスは非常に硬いため、通常のプレス金型でアモルファスを打ち抜くと、数百~数千ショットしか打ち抜くことができないのだ。しかし小松精機工作所が持つ独自のプレス技術によって、百万ショット以上の連続打ち抜き加工を可能にした。さらにHILLTOPの持つ装置開発技術によって、アモルファスの重層などの製造工程の自動化を行い、ついに量産化に成功したのだ。ネクストコアテクノロジーズでは、アモルファスモータコアに関してコア素材からモータコア製造までの一気通貫生産体制を構築している。これは世界で初めての試み。

メリットはこれだけではない。ネクストコアテクノロジーズのモータコアはリサイクルが可能なのだ。現在のモータコアは巻き銅線を取り除くには手作業しかなく、さらに電磁鋼板にはシリコンが用いられているため、電磁鋼板としてのリサイクルが難しく、鉄スクラップとするしかなかった。しかし、鉄基厚板アモルファスのモータコアは、熱処理をすることで結晶化し、容易に破砕できるようになるため銅線とコアを磁選機で分離できる。そしてそのまま再溶解→超急冷凝固することで再びモータコア材としてよみがえる。既存モータのさまざまな課題を、革新的なプロセスで解決する。それこそが同社の強みなのだ。
レアアースフリー、高Bs素材のモータコア
アモルファスの弱点としては、Bs(飽和磁束密度)が電磁鋼板に比べて低く、トルクが出せないということだ、そこでネクストコアテクノロジーズが生み出した「HLMET®( ヘルメット )」は、アモルファス並みの低鉄損・高透磁率を維持しつつ、アモルファスの弱点だったBsが電磁鋼板より低いという欠点を解決した世界初の高Bs素材なのだ。これにより、モータ起動時の瞬発力や高トルクが求められるEV用途、他に適する。ヘルメットは打ち抜き加工も可能で量産化に対応している。さらにレアメタルであるコバルトを使用していないHLMET®2もラインナップされており、将来的にはアモルファスよりもさらに価格を抑えられる可能性があるという。

EVモータにはモータ損失による発熱によりレアアース磁石の磁気特性低下を防ぐため、ヘビーレア―ス(HRE)を添加している。しかし、HREは中国に偏在することから、現在、中国の戦略物質となっており、調達に課題がある。だがヘルメットを用いることで、HRE添加が不要になり、中国に依存することなくEVモータを生産することができる。将来的には、ヘルメット活用により、磁石が不要な次世代高効率モータの実現も夢ではなく、地政学的なリスクを抑えることができるメリットは大きい。ネクストコアテクノロジーズでは今後もさらにHREフリー化を推進していく考えだ。
ネクストコアテクノロジーズでは、アモルファスやヘルメットの素材販売、モータコアの販売だけでなく、モータの技術開発も行っている。アモルファスを用いたモータ設計をしている会社はまだ少なく、既存の電磁鋼板を用いたモータ設計では、能力を十分に引きだせないのだ。アモルファスやヘルメットに最適なモータ設計のサポートを行うことで、走行距離であれば1.5倍、モータ出力30%向上を目指す。エアコンやデータセンターなどに活用されれば、最大値で50%もの省エネ効果が期待できるという。
今後はさらに材料コストを下げ、より社会実装しやすい体制を整えていく。EVだけでなく、家電やFAおよびドローンなど、現代社会において、あらゆるものに用いられているモータ。現状の課題をクリアした次世代高効率モータは、確実に世界を変える力を持っているのだ。ネクストコアテクノロジーズでは、今後、ライセンス契約も視野に、同社の技術がより多くの社会課題を解決していく方法を模索していくという。
「尖った」技術を持つ中小企業が集まり、事業化を達成
HILLTOP株式会社の代表取締役でもある山本勇輝氏のもとに、BIZYME株式会社・金清裕和氏からアモルファスコアの話が持ち込まれたのは2021年。そこからわずか1年半でコア素材技術を達成したのは、金清氏の長年の研究蓄積と、HILLTOPの装置開発技術が合致したためだ。だが、プレス加工で打ち抜けないという課題を解決するには至らず、山本氏が最初に声をかけたのが小松精機工作所の小松隆史氏であった。実は小松精機では10数年にわたりアモルファスの打ち抜き加工を研究していたものの、素材供給がないという課題に直面していたのだ。場所も離れており、異業種でもある3社の出会いはまさに運命的。運命に導かれるようにネクストコアテクノロジーズは生まれたのだ。
日本の中小企業には、どこよりも優れた技術を持つものの事業化を達成できていない会社も少なくない。1社だけではなく、同じ志を持った数社が集まることで大きなチャンスが舞い込んでくるかもしれない。ネクストコアテクノロジーズは、今後、モータだけでなく日本の製造業の在り方すらも改革する象徴的な存在になるだろう。
