業界特集
掲載企業エステック株式会社
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主要3品目
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プラズマ照射装置設計製作
砥石切断機設計製作
試料調製装置設計製作
島根県松江市のエステック株式会社は35年の実績を持つ装置メーカーだ。材料分析向け試料作製用の切断・研磨・搬送装置などの製造販売を祖業とする同社だが、プラズマ処理装置の開発を1997年に開始、2015年ごろより本格的に販売を始めた。現在に至るまでフィルム向けや粉体向けなど様々な用途向けのプラズマ処理装置を世に送り出してきた同社のコア技術ともいえる「マイルドプラズマ®」とはどのようなものなのだろうか?
材料表面への影響が最小限のプラズマ処理「マイルドプラズマ®」
―接着剤レスでの直接接合を可能とする技術とは
プラズマ処理とは、材料の表面にプラズマを照射することで官能基を付与し(これを「活性化」という)接着性や濡れ性などを改善する表面改質技術のことだ。官能基とは物質の性質を決める「特定の部分構造」のことで、例えば水酸基(-OH)は濡れ性や接着性を向上させる働きを持つ。プラズマ化させるガスを使い分けることで、このほかにもカルボニル基やカルボキシル基など用途に応じて様々な官能基を付与できる。

だが、プラズマ処理の効果は単なる表面改質だけにとどまらない。付与した官能基同士で化学的な結合を形成することで、接着剤レスで直接接合を行うことも可能となる。直接接合を行うことで接着剤接合の際に必要となる薬液による下地および接着剤処理が不要となり、環境負荷の低減が期待できる。
プラズマ処理では、プラズマ中で発生するガス由来の電子やイオン、ラジカル(極めて反応性の高い分子)が、材料表面の原子を“剥ぎ取り”、そこへ官能基を新たに結合することで付与される。しかし、一般的なプラズマ処理ではこの”剥ぎ取り”を行う際の副作用として、電子やイオン、ラジカルが持つ高いエネルギーによって表面が荒れてしまう。付与された官能基は時間とともに表面に潜り込もうとする性質(内転)を持っているが、表面が荒れているとこの潜り込みの速度が速くなる。そのため、せっかく付与した官能基も、プラズマ処理後の表面性状によってはわずかな時間でその働きを失ってしまうのだ。これがプラズマ処理における大きな課題といえる。

この課題に対し、同社は「マイルドプラズマ®」というソリューションを提供する。独自開発の電源と電極を用いたこの処理方式では、表面を荒らさずに高密度の官能基を付与できる。このため一般的なプラズマ処理と比べて処理後の経時変化を小さく抑えることができ、一例としてPETフィルムでは処理から十数年経過しても接合可能な状態が維持されるという。
また、一般的なプラズマ処理装置(真空プラズマの場合)ではチャンバーへのアイテムの出し入れに時間がかかり量産性が低下する傾向があるが、同社では真空チャンバー内でロールtoロールでフィルムの連続処理を行う方法を確立。同社の主力事業である生産ライン向け装置製造で培ったノウハウを活かし、量産現場でも活用できるプラズマ処理ソリューションを提供している。

通信分野を中心に医療・バイオ業界で活躍するマイルドプラズマ―
粉体の改質や炭素繊維の接着性改善事例もあり
マイルドプラズマの適用事例は多岐にわたる。近年とくに需要が高まっているのが通信・エレクトロニクス分野だ。

● 通信・エレクトロニクス分野
高周波基板やアンテナには、銅箔とPTFE(テフロン:誘電特性に優れる)を貼り合わせた部材が多く使われるが、このような製品の製造に同社のマイルドプラズマが活躍している。従来の接着剤を用いた接合では下処理としてプラズマ処理や薬品によるアンカー処理(表面に凹凸を形成する処理)が必要となるが、この処理過程で生じる凹凸が電気抵抗を増加させ製品の特性に影響を与えることがあった。マイルドプラズマによる直接接合で製造することでこのような下処理が不要となり、電気的特性を損なわない製品づくりが可能となった。強度も十分で、10N/㎝以上を確保しているという。

● 医療・バイオ分野
医療やバイオ分野での活用事例も多い。輸液や輸血に用いられる樹脂製パッグは安全性の観点から接着剤レス構造が望ましいが、マイルドプラズマを用いることでフィルム同士を直接接合して製造できる。またバイオ分野では、細胞培養に用いるシャーレへプラズマ処理を施すことで、細胞増殖に適した濡れ性としたり、培養した細胞を剥離回収しやすくしたりした事例もある。
● 粉体改質や炭素繊維にも対応
このほか同社では、粉体の改質や炭素繊維複合体の接着改善を行う装置もラインナップしている。ガス種や照射エネルギーなどのパラメータを調整することで材質ごとに最適な改質度合いとすることができる点は、マイルドプラズマ処理ならではの大きな強みだ。
装置の受託設計をきっかけに開発したマイルドプラズマの技術―
今後は海外への進出も加速へ
同社が表面を荒らさないプラズマ処理技術を獲得した背景には、同社がプラズマ分野へ参入した際のユニークな経緯が関係している。同社の創業者であり現代表の永島氏はもともと農機メーカーの技術者だったが、ものづくりへの強い探求心から独立を決意し1991年に同社を設立した。そして創業間もないころ、同氏の旧友が代表を務めるAPC株式会社(滋賀県)から量産向けプラズマ処理装置の製作を受託した。この時に受託した装置は繊維製品の量産ライン向けであり、素材を傷めないプラズマ処理の方法が求められた。これが同社におけるマイルドプラズマ処理開発のきっかけとなったのだ。
この受託製作案件以降、同社ではプラズマ処理装置の製品化は行っていなかった。しかし時代の変化とともに次世代高速通信分野などでのニーズが増えてきたことから2015年に本格的な拡販を開始、現在に至るまで累計十数台のプラズマ処理装置を出荷してきた。同社では装置の製造販売にとどまらず、マイルドプラズマの大きな特長である経時変化の小ささを活かしプラズマ処理の受託加工も請け負っており、装置を導入するハードルが高い場合でもマイルドプラズマの効果が実感できるサービスも提供している。
今後について同社担当者は「現在は展示会出展に力を入れており、今回弊社では初となる北米エリアでの展示会出展を行いました。AIやエレクトロニクスで一歩先を行く海外にも進出し、より積極的な拡販を進めていきます」と語る。同社では海外展開に向けて、メンテナンスや販売を担うパートナー企業を探しているほか、マイルドプラズマの新しい活用アイデアやニーズについても積極的に募集中だ。
接着剤レスでの直接接合を実現するエステック株式会社の「マイルドプラズマ」。島根から生まれたこのプラズマ処理技術によって、より環境負荷の小さい次世代のものづくりが実現する日は近いだろう。

