成長企業の経営戦略

公開日: / 最終更新日:

挑む経営者特集 第6回 -オサカダツール 牧 明奈氏- 国産チゼルで世界市場に挑む地域発グローバル戦略

挑む経営者特集 第6回 -オサカダツール 牧 明奈氏- 国産チゼルで世界市場に挑む地域発グローバル戦略

オサカダツール株式会社
代表取締役 牧 明奈 氏

掲載企業オサカダツール株式会社

主要3品目
  • 油圧ブレーカー用チゼル

  • ハンドブレーカー用チゼル

岡山県美作市に本社を構えるオサカダツール株式会社は、建設・土木分野で使用される耐衝撃工具「チゼル」の開発・製造を手掛けるメーカーである。チゼルとは、油圧ショベルや電動ハンマーの先端に装着し、岩盤やコンクリートを破砕するための工具であり、インフラ整備や建設現場に欠かせない重要部品である。
同社は厳選した国産材料の調達から加工、熱処理、検査までを自社一貫体制で行い、高い耐久性と品質を強みとしている。標準品に加えOEMやオーダーメイドにも対応し、日本国内のみならず北米、アジア、中東など海外市場にも製品を供給している。

創業以来、熱処理技術を基盤として発展してきた同社は、現在では国内でも数少ない一貫生産体制を持つチゼルメーカーの一社である。ニッチながらも社会インフラを支える重要部品を供給する企業として、現場の信頼を積み重ねてきた。
その経営を担うのが、代表取締役の牧明奈氏である。祖父の代から続く家業を継ぎながら、地域に根ざした技術を世界へ広げる挑戦を続けている。

現場経験から培った経営視点

牧氏が家業に入社したのは大学卒業後。短期留学を経て地元へ戻った際、父からの勧めが家業の門を叩く転機となった。祖父が創業した会社への思いもあり、入社を決意したという。

入社後は旋盤加工の現場に入り、出荷業務や顧客対応、伝票入力など幅広い業務を経験。さらに経理業務も担い、会社の収益構造や資金の流れを理解していった。2014年に取締役、2019年に代表取締役へと就任。現場から管理部門まで段階的に経験を積んできた。
材料調達から製造、販売まで一貫して手掛ける企業であるからこそ、各工程の理解が経営判断に直結する。牧氏は「すべての工程を経験したことが現在の判断基準につながっている」と振り返る。

女性経営者ネットワークが後押しした事業承継

代表就任に向けた意思決定の背景には、女性経営者コミュニティとの出会いがあった。同じ立場で経営を担う先輩たちの経験に触れたことで、事業承継への不安が和らいだという。
経営者としての覚悟は、特別な瞬間に生まれるものではない。悩みながらも一歩を踏み出す中で形成されていくものだ。周囲に相談できる環境の存在が、決断を支えた。
牧氏は「壮絶な経験を笑って話す先輩経営者の姿を見て、自分も進めると思えた」と語る。

岡山県ものづくり女性中央会の設立総会にて
全国レディース中央会にて

一本の問い合わせが生んだ海外展開

同社の海外展開は、カナダ企業からの問い合わせが契機となった。独自技術による「芯入チゼル」は耐久性に優れ、交換頻度を低減できる点が評価され、北米市場での販売につながった。

現在はJETRO(日本貿易振興機構)の支援を活用しながら市場開拓を進め、欧州企業との取引も視野に入れている。輸出比率は現状1割程度だが、将来的には2〜3割まで引き上げることを目標としている。
美作市は国産チゼル発祥の地ともいわれ、地域に根付く鍛冶文化の流れを受け継いでいる。牧氏は地域の技術を世界市場へ展開することで、地方産業の持続可能性を高めたいと考えている。

カナダのパートナー企業と
カナダの展示会にて

判断軸は「地域の未来につながるか」

牧氏の経営理念は「地域の未来をつなぐ価値ある企業をつくる」ことである。人口減少が進む地方において、雇用を維持し技術を継承することは容易ではない。しかし、同社の製品が世界で評価されることで、地域産業の可能性は広がる。

また先代から受け継いだ価値観として「従業員を大切にする経営」を重視している。仕組み化や制度整備には課題もあるが、人を活かす経営こそが企業の持続的成長につながると考えている。 品質向上にも力を入れており、ISO取得も視野に入れる。国際市場での信頼を高めることで、さらなる事業拡大を目指す。

熱処理の様子

困難が鍛えたコンプライアンス意識

リーマンショックによる需要減少は、大きな試練となった。雇用調整助成金の申請などを自ら行い、厳しい経営環境を乗り越えた経験は、経営者としての責任感を強めた。

さらに技能実習制度運用上の課題に直面したことで、法令遵守の重要性を再認識したという。制度に沿っているつもりでもリスクは存在する。だからこそ確認を怠らない姿勢が不可欠である。 こうした経験が現在の経営基盤を支えている。

工場内の様子

次世代の経営者へ――迷いながら進めばよい

牧氏は次世代の経営者に対し、「自信があるから進むのではなく、進みながら形にしていけばよい」と語る。

経営において重要なのは、周囲に相談しながら前進する姿勢である。課題を一人で抱え込まず、助けを求めることで新たな道が開ける。

地域に根ざした技術を武器に、世界市場への挑戦を続けるオサカダツール。地方発ものづくり企業の可能性を体現する存在として、その歩みは今後も注目される。

代表取締役 牧 明奈 氏

製品情報

  • スリットチゼル【特殊製作・オーダーメイド】

  • 水中作業、高所破砕作業、深穴破砕用ロングチゼル【特殊製作・オーダーメイド】

こちらの記事もおすすめ
pagetop