成長企業の経営戦略

公開日: / 最終更新日:

静かに杭を打つ「圧入技術」が建設業界を変える 激甚化する災害、老朽化するインフラ更新に新たな解決策を――株式会社技研製作所 

静かに杭を打つ「圧入技術」が建設業界を変える 激甚化する災害、老朽化するインフラ更新に新たな解決策を――株式会社技研製作所 

株式会社技研製作所

掲載企業株式会社技研製作所

建設公害一掃のため生み出された「サイレントパイラー」

「人に迷惑をかけずに杭打ちができないか」――株式会社 技研製作所の創業者・北村 精男氏の強い思いが、全ての始まりだ。時は高度成長期。日本中で建設ラッシュが起こっていた。1967年、北村氏は「公害対処事業」の看板を掲げ、土木工事会社の高知技研コンサルタントを創業。当時の稼ぎ頭は杭打ち工事と解体工事だった。1970年の台風10号からの復興工事需要などにより会社の業績は順調に伸びはじめた。その一方で、工事現場の振動・騒音は全国的に大きな社会問題となり、特に杭打ち工事はその元凶とされ、北村氏のもとにも住民からの苦情が殺到するようになった。人のため、社会のために行っているはずの土木工事が、その騒音や振動により人に迷惑をかけるというジレンマに晒された。危機感を抱いた北村氏は、静かな杭打ちができる工法を求めて世界中を飛び回って調べたという。しかし理想的なものは見つからない。「無いなら、自分でつくってやろう」と一念発起し、無公害杭打ち機を自ら開発する決意をした。1975年、そうして生まれたのが“静かな杭打ち機”「サイレントパイラー」であった。

サイレントパイラー第1号機

圧入工法とはなにか

サイレントパイラーは「圧入原理」を世界で初めて実用化した杭打ち機だ。すでに地中に押し込まれた杭を掴み、掴んだ杭の引抜抵抗力を反力として次の杭を油圧による静荷重で静かに地中に押し込んでいく。騒音や振動は発生しない。これは北村氏が、地面に打ち込まれたH鋼をウインチで引き抜くという作業で、H鋼がなかなか抜けずに把持部が引きちぎれてしまった現場を見たことから生まれた発想。机上ではなく、現場から生まれたアイディアなのだ。 「杭にまとわりつく地球(地盤)の力」を、杭を地中に押し込む力に変換できれば、振動も騒音も出ない無公害杭打ち機ができるのではないか――このひらめきを基に、北村氏は自ら機械のスケッチを作成。そして「高知のエジソン」と呼ばれた垣内商店(現・株式会社垣内)の垣内保夫氏と共に開発をスタートさせた。開発で最大の技術的難関は、小型・軽量の機体で100トン級の圧入力を生み出すための超高圧油圧の実現だった。通常の建機では140kgf/cm²程度のところ、油圧機メーカーに掛け合い700 kgf/cm²を実現するなど試行錯誤し、全く新しい工法である「圧入工法」を生み出した。圧入工法は当初よりその静かさが評価されたが、「柔らかい地盤にしか入らない」というイメージを長く持たれていた。しかし、困難に突き当たるたびに新しい発想で機械を改良。現在では、硬質地盤クリア工法、ジャイロプレス工法など、硬い地盤や岩盤、その他さまざまな現場環境に対応できる機種を揃えている。1986年には圧入工法が建設省「土木工事積算基準」に正規採用された。

より小型・軽量に進化したサイレントパイラーの最新機種

通常建設機械は自らの重さよりも大きいものは取り扱うことができない。ひっくり返ってしまう危険があるためだ。だがサイレントパイラーならば、打ち込んだ杭をしっかりと掴み機体を安定させるため、機械自体を小さく軽くできるというのが大きな特徴となっている。建設工事においては、機械の設置や安全性の確保のために工事のための工事である仮設工事を行うことが一般的である。しかしサイレントパイラーは、連続して打設した杭の上をレールのように機械が自走することができるため、大掛かりな足場や土台を仮設することなく、安全で迅速さらに経済的に工事を行うことができるのだ。技研製作所が生み出した仮設レス施工「GRBシステム」は、水上や傾斜地、街中などの狭隘地でも施工が可能であり、まさに建設業界の常識を覆している。

GRBシステム
従来工法とGRBシステムの比較イメージ図
GRBシステムによる災害復旧工事の様子

地震・津波に粘り強く耐える構造への転換
日本だけでなく世界各地で採用が進む

大きな転機となったのは、2011年の東日本大震災だった。従来のコンクリート構造物を地面に置いただけの防潮堤や土を盛っただけの堤防は、地震と津波によって崩壊・流失し、本来の機能を発揮することなく甚大な被害を引き起こした。その中でも無傷で残っていた構造物があった。それは技研製作所が提唱してきた「インプラント構造」による鋼矢板二重締切の遮水壁だった。地中深くに根入れされた杭は地球と一体化し、津波などの外力に粘り強く耐えることができる。以降、粘り強い構造物を無公害かつ急速に構築できる工法として、圧入技術の採用は一気に拡大した。

現在ではオランダの世界遺産「アムステルダムの環状運河地域」の護岸改修にサイレントパイラーが採択されたのを皮切りに、国を挙げて取り組んでいる治水対策事業「デルタプログラム」における河川堤防工事にも採用。技研の技術が世界遺産の町と人々の生活、そして文化を守っているのだ。樹木の伐採・移動が不可など厳しい制約条件下でも、低空頭環境・狭隘条件に対応する専用クレーンを自社開発し投入するなど、技術力でこれに応えている。SDGsに対する要求も大きく、現場でCO2を発生しないフル電動システムも開発し、投入している。

世界遺産運河の護岸改修工事の様子
オランダの河川堤防工事にも採用

土木事業は世界各国で事情がそれぞれ異なるが、圧入技術でなければ解決できない課題を抱える現場は無数にある。これまで40以上の国と地域で採用実績が広がっているが、今後はさらにさまざまな国地域へ、技研製作所の新工法が広まっていくだろう。

地球を超えて、宇宙へ
オンリーワン技術で社会課題を解決に導く

技研製作所は国が進める「宇宙建設革新プロジェクト」にも参加しており、現在「技術研究開発(R&D)」ステージの5年目だ。重力が地球の1/6しかない月面では、従来の機械重量に頼る工法は現実的ではない。圧入工法は地盤に打ち込んだ杭をつかみ、その引き抜き抵抗力を利用して次の杭を打つことができるため、原理上、無重力空間でも施工できる。月の砂レゴリスは非常に熱を持ちやすく、月面であるため水を使用できないといった課題に直面しながらも、着実に目標に向かって挑戦を続けており評価を受けている。

また、小型〜中型衛星向けロケット発射基地「スペースポート高知」プロジェクトにも参画しており、民間主導の人工衛星打上げ基盤整備に寄与していきたい考えだという。技研製作所の技術は地球と一体化するだけでなく、さらに宇宙を目指しているのだ。

サイレントパイラーによる月面での施工イメージ図

技研製作所は挑戦し続ける。マーケットインでも単純なプロダクトアウトでもなく、「ソサエティイン」(社会課題起点)で解決策を提示・実装していくのが、技研の、そして創業者北村氏の思想だ。激甚化する災害、老朽化していく社会インフラの更新という目前に迫る社会課題。そして循環型社会、次なる世代に繋がる街づくりへどう貢献していくかという社会的要求の中で、「オンリーワンの技術で人命・財産・文化を未来につなぐ」をパーパスに掲げ、技研製作所は常に大地を掴み、前へ進み続ける。

掲載会社情報

株式会社技研製作所

株式会社技研製作所

所在地
〒781-5195 高知県高知市布師田3948番地1
TEL
088-846-2933
FAX
088-846-2939
こちらの記事もおすすめ
pagetop