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【座談会】「100年を目指して」 ―これからの経営視点と展望とは?

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日本には多くの長寿企業がある。
その中でも 100 年という節目を迎えた企業は、世界の半数以上が日本にあると言われている。こうした 100 年企業は長期的な経営視点を持ち、社会や地域に貢献してきた。めっき、熱処理業界において、100 年を目前とする長寿企業の経営者たちに、めっき・熱処理業界の移り変わりとこれからの展望について話を聞いた。

岡崎 淳一 氏
ジャスト株式会社
代表取締役社長
渡邊 弘子 氏
富士電子工業株式会社
代表取締役社長
杉野 公治 氏
旭鍍金株式会社
専務取締役
モデレーター
前田 泰宏 氏
元中小企業庁長官

渡邊  富士電子工業はIHを使った熱処理の装置の開発と、それを用いた熱処理の受託加工を行っています。1960年創業ですので、2023年で63年目です。国内だけでなく海外にも輸出していまして、コロナ禍の遅れはまだ取り戻せておりませんが、カーボンニュートラルを背景に熱処理以外の設備の製造も増えております。

岡崎 ジャストは亜鉛めっき、無電解ニッケルめっきのほか、特殊なめっき加工としてステンレスナットの内面に銀めっき加工をしています。またダイヤモンド電着も行っており、電着工具だけでなく医療用のピンセットなどに使用されています。リーマンショック以降、自動車部品などの大量の量産品が減ってしまったため、こうした電着工具や医療機器分野を開拓し、今は柱になっています。当社の創業は1950年で、73年目になります。

杉野 旭鍍金と申します。私どもの創業は1948年で、今年75年になります。当初は家電メーカーからの引き合いで硬質クロムやニッケルクロム、亜鉛めっきなどを主流で行っていました。しかし、それらの仕事が一気になくなってしまい、貴金属めっき、フープめっきをやり始めたのが大きな転換期です。

最大の危機は?

前田 私は100年企業を分析してきましたが、共通しているのが「戦争」「震災」、そして「リーマンショック」や「コロナ禍」を生き抜いてきたことです。そこで3社にお伺いしますが、これまで最大の危機としてはどのような出来事がありましたでしょうか。

渡邊 1970年代のオイルショックです。創業者である父から聞いた話ですが、倒産の噂が出てしまうと、取引先から「支払いを全て現金化してほしい」と言ってきて、さらに銀行が貸付をしてくれなくなってしまうということが起こり、大変苦労したということでした。

岡崎 営業利益で言えば、ここ2年が過去最大に厳しいです。材料が高騰していますが、毎月価格の見直しができる貴金属と異なり、亜鉛やニッケルは20~30年値段が変わらないものもあります。めっきをすればするほど赤字という状況です。材料の値上がり、燃料、電気代の全てが値上がりして、自助努力だけではどうにもならないことになってようやく値上げをお願いしました。業界の構造的な問題として価格の見直しができないという状況になってしまっています。

渡邊 熱処理は業界として値上げ交渉をしています。前田さんの古巣の中小企業庁のWebサイトから書面を作り、各工業会の会長の名前で「値上げに協力してください」と各社に送付しています。

前田 中小企業庁長官の時は渡邊社長に突き上げられて死ぬほどやりました。

岡崎 すごいですね(笑)

前田 今日、これだけ材料費や燃料費が上がっていて、価格転嫁できないというのはおかしい話です。価格転嫁を集中的にやると言う話は政府でも決まっていますから、ぜひ声を上げてください。

岡崎 ありがとうございます。よろしくお願いします。

杉野 当社で一番厳しかったのはリーマンショックの時です。

前田 各社それぞれですね。

杉野 めっき屋は客先から品物を預かって加工する業種ですので、お客さんが動いてくれないと全く仕事がありません。岡崎社長がおっしゃるように、貴金属は値段を変えられますが、金属の値段だけでそのほかの材料や電気代などは転嫁できません。やはり正当な価格設定というのは大事だと思います。

後継者について

前田 100年企業を見ていると、後継者が決まっている企業には迷いがありません。各社はどのように後継者をつないでいきましたか。

岡崎 当社は、岡崎家が代々つないでいるのですが、私の子どもはまだ小さいので、今取り組んでいるのがM&Aです。ホールディングス会社を作って適切な人材を配置して、もし何かあっても、誰かが責任者になれるような仕組み作りに取り組んでいるところです。

杉野 私自身は創業者とは血縁関係はありません。創業者一族である中山家の二代目社長が急死された際、後継者がまだ20代で学生だったため、総務部長だった者が社長になるなど、2人の中継ぎがいました。その後二代目社長の息子さんが入社され、現在は40代で社長をしております。二代目社長が亡くなった後に、社内で話し合って業態を大きく変え、貴金属めっきをやるようになりました。

渡邊 私は社長としては三代目ですが、技術出身の方が中継ぎをしてくれました。2008年リーマンショックの影響で日本の景気も悪くなると予想したのですが、不況時ではオーナー家でない方は投資を差し控えてしまうと思いました。私は景気が悪い時こそ攻めの姿勢を取るべきだと思っていましたので、当時は常務でしたが、社長に立候補しました。息子が今年入社したので、能力があれば継いでもらうことも考えています。お客様や社員もいるので、まとめることができるかどうかにかかっていると思います。

100年企業のキーワードは「信頼関係」

前田 100年企業に共通するキーワードは信頼関係です。100年企業の経営者は口をそろえて、「急激にもうけるということはせず、身の丈の利益を長く続けること」「取引先を中心に信頼関係を大事にすること」と言っています。皆さんが信頼を守るために心がけていることを教えてください。

岡崎 リーマンショックを契機に、残業時間の見直しを行いました。長くても2時間で終わるような仕組み作りをすると、自動的に売り上げも落ちます。その上で適正人数を調査し、調整しました。適正な売り上げと利益を導き出して、リーマン以後は売り上げを維持しています。

前田 取引先の変化はないですか?

岡崎 当然あります。ですが、今のところうまくかみ合って、横ばいで推移しています。投資に関しても年商以上のことは一切しません。工場のラインごとに採算分析をして、採算が合っていないものは廃止をして、メーカーのサブラインとして場所貸しをしています。リスクはほぼ0なので、今は営業をかけているところです。

杉野 従業員との信頼関係です。当社は小さい会社ですが、労働組合があります。いかに仕事がやりやすい環境にするか、経営層と組合側で話し合いながら、信頼関係をつないでいます。取引先との信頼関係は、やはり品質とサービスです。最近は表面処理でも非常に厳しい要求がありますが、どのように継続して部品を供給するか。そして、納期ですね。

渡邊 従業員と協力企業との信頼関係を大切にしています。リーマンショックの際、当社も苦しかったのですが、新しい工場を建て、協力企業さんに仕事をお願いしました。この時のことを知っている経営者さんは、今でも当社の仕事を第一優先でやってくださいます。

業界組合についての展望

前田 中小企業庁長官だった際に疑問だったのが、「〇〇業界」というのは必要なのかどうか、でした。これから業界をどうしていくべきなのかの展望をお聞かせください。

杉野 当社の社長が三重県のめっき組合の理事長をしていますが、組合に所属する会社も減っているので、今後変化していくかもしれません。

岡崎 今のめっき業界は、一社でもうけようと考える会社がほとんどなくなってしまいました。値段もですが、皆でベースアップするためにはどうすれば良いのか組合の仲間と議論をしています。少し前から業界団体のあり方が変わってきているように感じます。

渡邊 私は日本金属熱処理工業会の会長をしています。熱処理業界は世代交代が進んでおり、戦える業界であろうというスローガンで、交渉のための勉強会などを行っています。熱処理業界は「燃料多消費業界」だと思われていますが、熱処理は前後工程においてCO₂削減に貢献しているということを広く知ってもらう活動もしています。

これからの課題について

前田 100年企業を目指す上で、最大の課題を教えてください。

岡崎 日本の人口減が最大の課題ではないかと思っています。人材採用ができるような魅力的な会社を作ることも大事ですが、省力化に取り組んでいます。また自社で省力化設備の企画設計施工までできる体制を整え、同業者に格安で提供できるような設備会社を考えています。家族経営の小さなめっき屋さんも続けていけるような方向になればと計画しています。

杉野 やはり人材の確保が難しくなっていくと思います。そのためには従業員が働きやすい環境ですね。当社は女性従業員の比率も高く、今後も女性が結婚してお子さんが生まれてもまた仕事ができるような環境を作っていくのが一番大事だと思っています。

渡邊 体制としてフレキシブルな経営を行うことを目指しています。お客様にきちんと交渉ができる会社であることも大切ですし、海外マーケットも増やしていくので、広い視野を持った社員を育てていくのが大事だと思っています。女性活躍について、当社は最先端を行っていると思うので、継続していきます。

前田 今回は、「100年に向けて」ということで大きなテーマでしたが、充実したお話をお聞きできたと思います。お忙しいところご参加いただきまして、まことにありがとうございました。

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