業界特集

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​​振動と電気の相互変換を実現する新素材「磁歪クラッド材」―産学官連携で農業分野や環境発電での社会実装を目指す​ 

​​振動と電気の相互変換を実現する新素材「磁歪クラッド材」―産学官連携で農業分野や環境発電での社会実装を目指す​ 

東北特殊鋼株式会社

掲載企業東北特殊鋼株式会社

従業員数

(連結)589名 / (単体)378名(臨時従業員を除く)

年間売上高
(連結)211億円 / (単体)170億円

​​宮城県村田町に本社を構える東北特殊鋼株式会社は、国内でも有数の特殊鋼メーカーだ。1937年に国内金属研究の第一人者である東北大学・本多光太郎博士の提言によって設立された同社は、当時特殊鋼製造のノウハウがなかった国内において、他社に先駆けて特殊鋼製造に乗り出した。戦後は自動車向け鋼材を中心に手掛け、1960年には世界初となる電磁ステンレス鋼(K-M31)を開発した。​ 

​​現在でも耐熱鋼や電磁ステンレス鋼を主力とし、自動車のエンジンバルブやソレノイド用の鋼材では国内で多くの顧客に選ばれている。また、特殊鋼・特殊合金の製造販売だけにとどまらず鋼材の精密加工・熱処理なども手掛けており、まさに「特殊鋼の総合メーカー」と言える存在だ。半導体製造装置向けの拡販にも注力しており、SEMI(国際半導体製造装置材料協会)認定の「K-M38」「K-M45」といった鋼材も取り扱っている。​ 

​​そんな同社が、長年の鋼材製造・加工ノウハウを活かして研究開発に取り組んでいる革新的な製品がある―それが「磁歪クラッド材」だ。

磁歪クラッド材(コイル中心から伸びている2層構造の金属板)

​​電気を力に、力を電気に変える素材―磁歪材料を組み合わせた「磁歪クラッド材」​ 

​​磁歪とは、ニッケルやコバルトといった磁性体に磁場を加えると長さが伸びたり逆に縮んだりする現象のことだ。​ 

​​磁性体の内部は「磁区」といういくつもの小さな領域に分かれており、単体のままではこれらはバラバラの方向を向いている。そこにコイルなどで外部から磁場を加えると、これらの磁区が磁場と同じ方向を向く。このときに原子の格子構造が動くことで、長さが変化する現象(磁気ジュール効果)が『磁歪』だ。例えば、鉄-コバルト合金では磁場を加えると長さが伸びる「正の磁歪」、逆にニッケルなどは長さが縮む「負の磁歪」の性質を持っている。​ 

​​ここで、正と負それぞれの磁歪を起こす2つの材料を貼り合わせらどうなるだろうか。これが東北特殊鋼が開発した「磁歪クラッド材」の考え方だ。同社では特殊鋼を含めた様々な金属の熱処理加工で培った拡散接合技術を用いて(​​拡散接合については弊メディアの別特集記事を参照​​)、鉄-コバルト合金とニッケルの2枚の磁歪材料を貼り合わせた素材を開発した。この素材に磁場を加えると鉄-コバルト側は伸び、ニッケル側は縮む、つまり「反る」のだ。この性質を利用しコイルの中に磁歪クラッド材を入れ交流電流を流す(≒加える磁場を高速で変化させる)ことで、クラッド材を振動させることができる。​ 

​​さらに、磁性体にはもう一つ興味深い性質がある。それが「逆磁歪」だ。これは磁場を加えると長さが変化する性質の逆、つまり磁性体に外力を加えることで磁場に対しての応答が変化する(ビラリ効果)という性質だ。2つの磁性体を貼り合わせて作られている磁歪クラッド材にももちろんこの性質は存在しており、磁化させた磁歪クラッド材に曲げ振動を加えることでコイルに電気を発生させることができる。このため、磁歪クラッド材は振動材料としてだけでなく、発電材料として用いることもできるのだ。

磁歪現象

​​自在に制御可能な振動デバイスや発電デバイスとしての実用化を目指す―圧電素子よりも高い耐久性で、長期使用にも最適​ 

​​力と電気を相互に変換する素材としては他にもピエゾ素子(圧電素子)があるが、セラミックを用いるピエゾ素子は衝撃や大きな荷重に弱く、耐久性がやや低いという特徴がある。これに対し金属でできている磁歪クラッド材は強度が高く、また大きな力を生み出せるという点で優位性がある。つまり、大きな荷重・衝撃がかかる場所や長期間の耐久性が求められる場所での利用により適しているといえる。​ 

​​磁歪クラッド材が振動する強さやその周期は、加える磁場の強さや周波数(≒コイルに流す電流の強さや周波数)を変えることで細かく制御できる。そのため、磁歪クラッド材を利用することで「狙った力(振幅の大きさ)と周波数帯の振動を正確に生み出す」ことや「材料にかかった力の大きさを高い精度で検出する」ことが可能となる。この2つの特長や発電材料としての性質を用いて、同社では磁歪クラッド材を用いた様々なデバイス開発を行っている。​ 

​​現在同社が最も力を入れているのが、農業向けの害虫防除デバイスだ。同社は磁歪クラッド材を用いたアクチュエータとして、害虫の増殖を抑える振動防除装置を開発した。「トマトに寄り付くコナジラミという害虫は農薬に対する抵抗性が強く、防除が難しいとされています。コナジラミが嫌がる周波数は100Hzから300Hz(種で異なる)だということが研究で分かっているので、磁歪式アクチュエータを用いてピンポイントでこの周波数の振動をトマトに与えることで、害虫を防除するというのがこのデバイスの仕組みです」と担当者は説明する。農水省のオープンイノベーション研究・実用化推進事業にも採択され、産学官協同による研究開発並びに社会実装に向けた実証実験が進められ、一定の効果も確認されている。同社では、この振動防除装置「トマタブル®」の商品化を進めている。​ 

​​磁歪クラッド材をセンサーとして用いたアイテムもある。振動させている磁歪クラッド材の周波数変化を検出することで、数百ナノグラムの分解能で重さを検出する微小センシングデバイスも開発した。これは風邪ウイルスの付着が検出できるレベルの分解能であり、将来的には環境モニタリングデバイスなどへの応用が期待されている。農作物からウイルスまで大小さまざまなものに活用できる点は、接合する2枚の材料の厚さを変えることで自在にスペックを変えられる磁歪クラッド材ならではの強みと言える。​ 

​​発電関連では、磁歪クラッド材を発電素子として用いることで工場設備のIoT監視デバイスを電源レスで稼働させる実験を行った。将来的には強靭で衝撃に強い性質を活かして、地面や道路など大規模な振動を利用した環境発電への応用にも期待できる。 

設置写真

​​特殊鋼一筋80年以上の歴史と産学連携が生んだ材料技術―最後の課題は市場投入​ 

​​磁歪材料自体は100年以上前から知られていたが、材料コストの割に単体では変形量が小さく、本格的に実用化されるケースは少なかった。その中で同社は東北大学と協同で2018年に冷間圧延鋼板と鉄-コバルト磁歪材料を用いた最初の磁歪クラッド材を開発、磁歪材料の実用化手段として大きな注目を集めた。​ 

​​「2つの磁歪材料を重ね合わせたら変形量を大きくできるのではないかと大学の先生から提案を受けまして、ちょうど弊社には熱拡散接合のノウハウがあったため、それらが最適なタイミングでマッチしました」と担当者は当時を振り返る。拡散接合で異種材を接合する際には、加熱過程で生じる「反り」を制御することが不可欠だが、同社は独自開発のプロセスでこの問題も克服。こうして作られた磁歪クラッド材は、従来の磁歪材料単独の場合よりも20倍以上の出力を実現した。​ 

​​磁歪クラッド材の目の前に立ちはだかる最後の課題は、アイテム化と市場投入だという。「トマタブル®は商品化に向けて進んでいますが、開発したものの実にならなかった製品も数多くありました。既存の圧電素子が苦手とする耐久性や耐荷重を生かした製品を中心に今後も模索していきます」と担当者。同社ではアイテムの商品化には、それらを共創するパートナーの存在も重要であるという。​ 

​​特殊鋼一筋80年以上。積み重ねたノウハウと、アカデミック領域の知見が融合して生まれた画期的な新素材「磁歪クラッド材」。狙った力と周波数の制御ができる振動材料として、またあるいはエナジーハーベスティング材料として、サステナブルな社会の実現を目指し東北特殊鋼は今後も磁歪クラッド材の社会実装に向けて歩みを進めていく。​ 

掲載会社情報

東北特殊鋼株式会社

東北特殊鋼株式会社

所在地
宮城県柴田郡村田町大字村田字西ケ丘23
TEL
0224-82-1010
FAX
0224-82-1020
URL
https://www.tohokusteel.com/
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