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【座談会】板金業界の未来を率いる!挑戦する若手エグゼクティブたちのビジョン

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少子高齢化が加速する日本において、中小企業経営者の平均年齢も 60 歳を突破し、なおも上昇しつづけている――、今回は、板金業界で活躍する 30代で、経営の中核を担う方々に参集いただき、自身が経営にかかわるようになるまでの道のりや、採用活動、新規事業への挑戦、今後の展望などについて、政策研究大学院大学名誉教授の橋本久義氏が話を聞いた。

茂原 亮太 氏
株式会社モハラテクニカ
代表取締役
上川 博之 氏
三工電機株式会社
代表取締役社長
藤田 一平 氏
フジテック株式会社
専務取締役
モデレーター
橋本 久義 氏
政策研究大学院大学
名誉教授

上川  三工電機は船舶向けの分電盤や制御盤の設計から製造販売までを対応しています。分電盤においては国内建造の船の8割シェアを占めています。当社の強みとしては同じ敷地内で、板金から塗装、組み立て、検査までできる点です。従業員は75人在籍しており、2024年で創業67年を迎えます。私は3代目で、社長を引き継いで約2年経ちました。

橋本 シェア8割というのは素晴らしいですね。そこまで拡大されたきっかけは何だったのでしょうか。

上川 造船業界で中心となる大手企業のOEMに携わっています。創業者は技術中心で、当時の専務が戦略的に展開していったと聞いています。

橋本 そうでしたか。ありがとうございました。では続いて、茂原さんお願いします。

茂原 モハラテクニカは設立からちょうど半世紀を迎えます。創業時はプレス加工業で、自動車ランプ製造が中心でしたが現在は精密板金を主軸にしています。自動車量産部品以外の多様な業界に使っていただいている状況です。特に、2000年頃のITバブル(インターネット・バブル)崩壊後は多品種小ロット生産に舵を切りまして、現在は定期的に取引しているのが120~130社、うち上位6社で60%の売上を占めている状態です。最近ではバスバーなど銅関係の製品で形状が複雑なもの、精密板金の依頼が増えています。従業員は48人でそのうち36人が現場に入っています。上川社長と同じく、私も3代目社長かつ引き継いでから2年が経ちます。

藤田 フジテックと申します。各種鋼材R曲げ加工に特化しており建築、土木、製缶プラント業界の仕事がメインですが、美術大学生など個人のお客様の依頼も対応します。最近では上野駅のモニュメント「UENO」の「O」を曲げた実績があります。当社は1963年に私の祖父が製缶業として創業しましたが、やがて高度成長期からバブル期頃にかけて製缶プラント関係の仕事が多く出てきたので1987年頃曲げ加工専門に変わりました。現在は父が社長をしております。

自分が経営にかかわるまでのことを教えて

橋本 今回は若手経営層にお集まりいただいたということで、皆さんが経営層クラスへ就任に至るまでの道のりをお伺いしたいですが、いかがですか?

上川 私は幼少期から野球をやっていてプロ野球選手になる事が夢でしたがプロからは声が掛かりませんでした。しかし小中高と同じチームでバッテリーを組んだライバルがプロ球団へ入団しました。嬉しさ半分、やはり「負けたくない」、せめて、「稼ぎで負けたくない」と10年間、輸入商社で必死に働きました。キャリアを積んでいき、経営者の方と話す機会が多くなりました。自分も社長になり会社を経営したいと思い周りに話していましたが、「今のキャリアを捨てるのはもったいない」「この時代、社長になっても苦労するだけだろう」と3年くらい周囲から猛反対されました。

橋本 3年も……。

上川 最終的に三工電機に入社することになり、その3年後には取締役に就任しました。ただ入社当時の社内は非常に雰囲気が悪く、個人的な嫌がらせを受けたこともありましたし、毎月のように人が辞め、また別の人が入社するという状態でした。そのため社員と飲みに行くなどして、コミュニケーションを重ね「何とか会社を変えたいんだ!」と情熱を持ってみんなに伝えていました。

三工電機の採用活動の様子

茂原 私は大学3年時からNCネットワークでインターンシップに参加させていただき、そのまま正社員として6年半勤めました。その後27歳の時に実家に戻りまして8年ほど勤務した後、社長だった父が亡くなったため引き継ぎました。

藤田 私は、漠然と「社長になりたい」とは思っていました。父が楽しそうに仕事をしていましたし、本人もそのように言っていたのを幼少期から見ていたので。ただ、分野としては飲食や宿泊などサービス関係の業務に興味を持っていました。就職活動中に父から「会社に入らないか」と聞かれ、気は進まなかったのですが、結局、一般枠で入社することになりました。初めは何度も「辞めたい」と感じましたが、徐々に軌道に乗ってきたといいますか……。現在は専務という立場で、一般社員時代に同期と話し合った不満点を一つひとつ解決している状態です。一般社員の目線で物事を考えられるのも、ある意味で私の強みかなと思います。

新規事業への挑戦

橋本 近年取り組まれた事業や概況についてお聞かせください。

上川 申し上げたように船舶関係のシェアが安定しているので、積極的な技術開発より現状維持をしようという雰囲気が社内にあります。改めて「ものづくりの楽しさを実感しよう!」と現在はBtoC事業に力を入れ始めました。

茂原 約10年前に私がモハラテクニカに入社した頃、従業員は今の半分で年商3億~4億円でした。先代までは、地元企業の横のつながりを生かして引合を得ることも多かったのですが、次第に展示会出展や、Webページ・動画のリニューアルを通して、新規顧客の獲得につなげていきました。展示会でつながったお客様のおかげで、5年後に最も大きな売り上げになったという事例もあります。現在は従業員47人で8億5000万円の年商に達しているので、徐々に結果が見えてきたといったところです。

藤田 2019年に新社屋を建てたのを機にWebページも一新しました。ちょうど新型コロナの影響を受け始めた2020年1月に公開したので、既存客からの引合が落ち込む中、新規問合せが来たので助かりました。それでもコロナ禍で年商3億に転落しましたが、2023年4億9千万まで復活しました。また2023年には機械要素技術展に初出展しました。これまで新規案件の売上がほとんど0だったのが年商10%くらいに成長し、手ごたえを感じています。2024年も出展を予定しています。

自社のこれからを支える人材獲得のためにしていることは

橋本 採用活動や社内の人材については状況いかがですか?

藤田 当社は基本的に高卒の新卒採用をしていまして、川口工場では20~30代メンバーが中心で、50代の社員が0です。採用活動としては、地元の工業高校と関係性を築き、インターンシップの受け入れなども取り組んでいます。また工業高校のOBを通じての人脈も活用しています。

茂原 私が効果を感じたのは採用アドバイザー契約ですね。募集記事を代行で作成いただいたり、求職者の心に響く文章の書き方についてアドバイスを受けたりしています。新卒採用は実施しておらず20~30代のいわゆる第二新卒者が中心ですが、ここ10年で二十数人を採用し、3年以内に辞めたのは2人のみと定着率は良好です。製造業未経験者がほとんどですが、「楽しんで仕事をしているのかな」と思います。

上川 三工電機は新卒採用に特に力を入れています。高校や大学にも積極的に訪問して対話しています。そこでは、野球部の学生にも呼びかけているのですが、彼らは「稼げるかどうか」を重視している傾向がありますね。私自身が野球部出身なのでよく分かりますが、「これまで自分に投資をしてくれた家族に恩返しがしたい」という気持ちが強いのだと思います。運動部出身者は上下関係が厳しかった分、礼儀、礼節がしっかりしており、会社にも早く馴染めるのではないかと思っています。

茂原 それは私もサッカー部出身なのでよく分かります。

今後の事業展望はどう描く?―働き甲斐や楽しさを

橋本 今後の事業展開や展望など、各社で何か構想はお持ちですか?

上川 現在は、社員に私のビジョンを共有しながら一体感を醸成している最中です。現状の年商は13億円ですが1つの通過点として年商100億円を目指したい。そのためには何をすれば良いかを話し合っています。本業の制御盤を例に挙げますと、舶用と陸用があり陸用の方が10倍以上の市場があると言われています。当社では舶用が99%ですが最近では陸用にもアプローチをかけております。また、2026年に企業内大学をオープンする予定で、このプロジェクトに賛同してくれた大学教授や各分野のプロとカリキュラムを考えているところです。人生をより豊かにするには行動が必要ですが、その行動には知識が必要です。その知識を皆で学び、人生をより豊かにし「社員全員が三工電機って本当に良い会社だよ」と心から自慢できる会社にするという私の夢を実現したいと思っております。

茂原 2024年2月に工場を新設しました。工場の暗い・埃っぽいというようなマイナスイメージを払拭したくて、工場の2階部分に約70㎡のリビングのようなスペースを作りました。社員から要望があればバーベキューなどの交流目的で使えるように開放しています。「工場=単にものを作る場所」ではなく、楽しい空間にできればいいなと思って。

藤田 直近のプロジェクトとして、デザイナーと町工場がコラボする「川口まちこうば芸術祭」に参加しています。現在は近隣エリアのレーザー、板金、研磨、切削、溶接などを手掛ける4社と、当社の曲げ技術を融合して椅子を製作しています。完成品は2025年イタリアで開催の家具の見本市、ミラノサローネに出展予定です。また将来の展望として、バーカウンターがあるようなおしゃれな社員食堂を作るのが夢です。今は仕出し弁当を利用しているのですが、社員にさらに美味しい食事を提供したいと感じています。

上川 社員食堂は今回の企業内大学と一緒に建設予定ですが、NCネットワークさんの工場見学会で見た素敵な食堂を参考にしています。

橋本 皆さんの会社をよりよく変えていく取り組み、素晴らしいですね。本日は楽しい時間をありがとうございました。

フジテックが製作した金属椅子「yurari」

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