成長企業の経営戦略
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世界の農地・山林を支える機械をつくるキャニコムの成長戦略 ― 草刈機まさおを生んだ100億企業
株式会社筑水キャニコム
掲載企業株式会社筑水キャニコム
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従業員数
319名
福岡県うきは市に本社を置く、農業用・土木建設用・林業用運搬車・草刈作業車などの開発から製造・販売を行う株式会社筑水キャニコム。
「草刈機まさお」「ピンクレディ」「安全湿地帯」――

一度聞けば忘れない製品名と、熱狂的なファンの存在で知られるメーカーだ。
現在、売上は106億円を突破。その半分は海外市場が占める。だが、その原点は派手なマーケティングではない。「たった一人のお客様の困りごと」に向き合う、極めて地道なものづくり企業だった。
刀鍛冶から始まる歴史
創業家・包行(かねゆき)家は、18代続く刀鍛冶の家系。現社長の包行良光は20代目にあたる。

1948年、戦後に帰郷した祖父が「人を生かす道具を作りたい」と包行農具製作所を創業。
鋼を扱う技術の延長からカルチベーターや草刈り鎌など、農業分野へ進出した。
その後、クボタや井関農機向けのトレーラーOEM製造を開始。やがてエンジン付き小型運搬車へと進化し、「筑水農機株式会社」として成長していく。
1970年代、動力運搬車の需要を伸ばし売上は20億円規模へ。1992年には林業用運搬車の需要拡大で69億円に到達する。
しかしこの成功は、長く続かなかった。
市場消滅が生んだ転機
コンバインと乾燥機の普及により、農作業から「運ぶ」という工程が消え始めた。運搬機メーカーだったキャニコムにとって、市場そのものが縮小する危機だった。売上は長く30〜40億円規模に停滞し、従来製品の延長では将来が描けなくなる。
そこで同社は競争ではなく用途の創造へと舵を切る。
1994年発売の乗用草刈機「草刈機まさお」は、草刈りという重労働を“乗って行う作業”へ変えた製品だった。
創業期に鎌を製造していた原点に立ち返り、作業そのものを変える発想へ転換したことで、同社は運搬機メーカーから現場課題解決型メーカーへと姿を変えていく。この時期に確立された「一人の困りごとから始める開発姿勢」が、その後の成長の基盤となった。

演歌のものづくりとファンづくり
2000年代、同社は理念を「ものづくりは演歌だ」と表現するようになる。大量生産の平均解ではなく、個々の利用者の声を反映する製品づくりを意味する言葉だ。
ユーザーの“ボヤキ”を改良に反映し続けた結果、機械そのものに愛着を持つファンが生まれた。
その信頼を支えるのがアフターサービスである。午後の注文でも翌日には部品が届く体制を整え、機械が止まる時間を最小化する思想を徹底した。
性能だけでなく対応力で選ばれるブランドを築いたことで、製品は単なる道具ではなく「仕事を止めない相棒」として評価されるようになり、同社の独自のポジションが確立された。

現場から逆算した工場づくり
キャニコムのものづくりの特徴は、製品開発だけでなく工場設計にも表れている。
2021年8月に完成した新工場で圧倒的な存在感を放つのは、TRUMPF製パンチ・レーザー複合加工機「TruMatic 6000 fiber」である。1週間に12トン打ち抜く生産力を誇り、社長・包行がこだわった機械だ。
また、厚板加工専用ラインを導入し、切断から曲げまでを連続化。材料を投入すれば箱形状までほぼ自動で完成する仕組みを構築した。狙いは品質の安定ではなく「作業の再現性」である。入社2週間の社員でも工程を任せられることを前提に設計され、不良は発生していない。
溶接工程では14台のロボットを稼働させ約100種類の部品を生産。多品種ゆえ自動化率はまだ半分程度だが、将来的には8割まで高める計画だ。さらに塗装は粉体塗装へ切り替え、耐久性と環境対応を両立した。組立ラインも量産・新型・大型機の3系統に分け、従来10日かかっていた工程を3〜5日へ短縮している。
開発棟では20名ほどの開発チームが「壊れる前提」の試験を“地獄”の試験場「演歌の道 英莉花」といわれる酷道エリアで行い、どこが壊れ、何を守るべきかを検証。アフタパーツの即時出荷率 99.6%と導入した先の現場を止めないことが前提なのだ。
一人のボヤキから始まる思想は、製品のみならず生産システムそのものにまで貫かれている。


現場適応型の海外展開戦略
同社は海外展開を本格化する。特徴は国ではなく産業単位で考える点にある。米国ではトウモロコシやバイオエタノール、フランスではワイナリー、東南アジアではドリアンやパーム油など、作物や労働環境に合わせて機械を開発する。
その結果、海外売上比率は約半分に到達し、売上は100億円越えへと成長した。
キャニコムの強みは、同じ機械を世界に売ることではない。各地域の作業に最適化された機械を提供することにある。現場理解を起点とした開発姿勢が、地方メーカーからグローバル企業への転換を支え、次の成長段階へと押し上げている。
お客様に寄り添った製品改良、サービス対応。ものづくりの精度だけでなく、サービスにも力を注ぐキャニコム。世界中にキャニコム・ファンが広がっている。
