成長企業の経営戦略
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挑む経営者特集第5回 -アルファ電子 樽川 千香子 氏- なぜ電子機器製造工場が、米粉麺をつくるのか? 震災避難も、ものづくりの経験も。全てが縁で繋がり成長につながる
アルファ電子株式会社
代表取締役社長 樽川 千香子氏
掲載企業アルファ電子株式会社
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主要3品目
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医療機器・電子機器の開発設計/部品調達からの一貫生産
基板表面実装から完成までの一貫生産
海外生産品の品質保証業務
「何も分からないくせに」周囲からの声に歯痒い思いをしたことは、1度や2度ではない。「何も分からないところからスタートしたという気持ちは、忘れずにいたい」ものづくりも、経営も、そして全く新しい挑戦である食品事業も。分からなかったからこそ、できないならできるようになるにはどうしたらいいのかただ前だけを見て進むことができた。知らなかったからこそ、常識の壁を打ち破ることができた。2023年、代表取締役社長に樽川 千香子氏が就任。アルファ電子株式会社は、新たなフェーズへ歩みを進めている。

社員一人ずつに向き合いながら、会社の再生に着手
アルファ電子株式会社は、福島県天栄村に本社を置く電子機器製造会社だ。大型クリーンルームを完備し、品質基準の厳しい電子機器、医療機器製造を得意としている。三姉妹の次女である樽川氏は当初会社を継ぐ気はなく、介護職に勤めていたという。2011年東日本大震災で大きな被害を受けた福島県を離れ、親族のいない新潟県で幼い娘と共に避難生活を送ることとなった。後継者としてアルファ電子に入社していた夫との離婚を経て、2015年に跡取りとしてアルファ電子に入社。だが当時会社の業績は芳しくなく、2018年には外部金融機関の手を借り、再生支援を受けることとなった。
会社再生のためにまず着手したのは、不採算事業からの撤退だ。これまでは小さな規模の取引先も大事にしていたが、顧客を集約。継続案件についても単価の再見積もりを行った。震災以降、福島県の風評対策として稼働していた栃木県の事業所は赤字続きのため閉鎖し、組織改革にも着手。新たな会社体制に対応できない社員には、会社を離れてもらうこともあったという。
経理や簿記を勉強してから入社したものの、ものづくりの経験のない樽川社長には厳しい声も寄せられた。社内の意識改革の必要性を痛感しても、なかなか受け入れてもらえないジレンマに苦しんだ。「自分なりに勉強をして、こうありたいと思い描くヴィジョンもあったが、それを押し通してしまっては反発も大きくなってしまう。相手の声を聞き、コミュニケーションを取ること。謙虚にして驕らずではないが、社員一人一人を大切にするというアルファ電子の大家族主義は崩さずにやってきました」と樽川社長は話す。実際に、事業所閉鎖で会社を離れざるを得ない社員の次の就職先を樽川社長が一人一人見つけて繋げ、解雇ではなく自主退職するよう尽力した。
電子機器製造メーカーが挑戦する食品製造
米粉麺「う米めん」は全国の給食にも採用、海外進出も
既存事業だけでは大きな成長は難しいと判断し、新規事業を立ち上げることとなった。だが、これまでも自社の事業範囲内で自社ブランド製品に挑戦していたが、製品の移り変わりが激しい電子業界では時代の変化に追いつくことが難しい。「時代が変わっても、価値が変わらないもの。食ならば、いいものを作ればずっと食べ続けてもらえるのではないか」――そうして挑戦したのが、食品事業だ。そこには樽川社長の経験が生きている。娘のアレルギーや樽川社長自身の介護の経験から得た食の大切さ。そして避難先である新潟県の縁から出会った米粉。新潟県佐渡島で出会った米粉スイーツや米粉麺がとてもおいしかったこと。日本の米の消費量が低下しているなか、日本という国と文化の根幹である米作りをどう守っていくのか。新しい事業を起こすならば、社会課題を解決する事業であるべきではないか。そして何より、アルファ電子のある福島県天栄村は、田んぼに囲まれたのどかで美しい村であること。こうした点と点が全てつながり、アルファ電子は、米粉麺を新規事業の柱とすることを決めたという。

全く新しい挑戦ではあったが、思わぬ後押しもあった。ものづくり企業であるアルファ電子は、食品を販売するためにまず研究からスタートさせた。よりおいしく、より長く食べ続けてもらえる商品づくりを行った。商品開発の前には研究する。それがものづくりの会社であるアルファ電子にとっては当たり前のことだったからだ。その結果、グルテンフリーでおいしい米粉麺「う米めん」を開発。さらに工場の体制も、HACCPに基づいたISO22000を取得。通常の食品工場では難しいと言われる認証も、これまでISO9001に基づき厳しい品質管理を行ってきたアルファ電子の経験が生きたのだ。新規参入したメーカーがライバルの多い食品業界で頭角を現すのは並大抵ではない。だが製造業というベースを持つアルファ電子ならば、品質の安定性という点で初めから差別化できていたのだ。

アルファ電子の「う米めん」は都内のレストランでも使用され、販売店での取り扱いも増えているだけでなく、一都15県の学校給食にも採用されている。日本のみならずフランス・ドイツ・イスラエル・オーストラリアにも輸出するなど、世界に広まりつつある。2022年に食品工場が完成すると、業務用サイズなど商品展開を増加。さらに原料の米が全国から送られてきて製麺するというOEM生産が工場の稼働の4~5割を占めており、現在でも毎月10件近い問い合わせが寄せられる。自社ブランドをどう広めるかというフェーズから、米粉麺を世間にどれほど広めていくかというフェーズに移り変わっているという。「電子製品と食品の両輪でどこまでできるかは、当初イメージが沸きませんでした。ですが、今はできなくはないと思えてきた。固定概念がなかったので、新規参入でよかったと今なら思えます。今期からはお米も自分たちで作る挑戦を始めます。お米の消費量を上げていきたい」と樽川社長は前向きだ。

次世代経営者へ ― 感謝を忘れずに、一歩でも前へ
本業である電子機器製造も、現在では医療機器製造へ事業を変革させている。樽川氏が社長に就任してからビジネス構築を始め、少しずつ芽が出始めているという。アルファ電子は現在3拠点あり、それぞれの役割を果たしていきたいという。本社工場は自動化しにくい工場になっているが、逆に、ここに住み続ける人たちの働く環境を整えていく場所へ。須賀川工場は食品の未来を作る場所へ。仙台工場は利益を創出し、顧客のものづくりを支える場へ。会社全体が社会的にも必要とされる会社になり、そして利益もしっかり創出することで、社員へ還元がされるような会社を目指していく。
「これまでのことに感謝することを忘れさえしなければ、きっとうまくいくと思っています。無理かな、と思うことはたくさんあるけれど、常に打つ手は無限の精神で進んでいく。一歩でも前に行く。もうほんと、それだけですね。」
樽川 千香子 氏

