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日本オイルポンプ、次の成長をどこに求めるか。ベトナムで始まった製造移管と市場開拓

日本オイルポンプ、次の成長をどこに求めるか。ベトナムで始まった製造移管と市場開拓

日本オイルポンプ株式会社

掲載企業日本オイルポンプ株式会社

工作機械向け潤滑用ポンプを主力とする日本オイルポンプが、2025年からベトナムでの事業展開を本格化させている。創業から100年以上にわたり、国内市場を中心に補用対応を軸とした安定的な事業モデルを築いてきた同社にとって、次の成長をどこに求めるかが現実的な課題として浮上してきた。その選択肢として同社が踏み出したのが海外展開であり、拠点の一つとして選ばれたのがベトナムだった。中国向け製品の製造移管を起点に、現地でのサプライチェーン構築と販売基盤づくりを並行して進めている。なぜベトナムだったのか。立ち上げはどのように進み、現在どこに課題を見ているのか。代表取締役社長の阿部治氏に話を聞いた。

日本オイルポンプ株式会社
代表取締役社長阿部治氏

成熟した国内市場と、次の成長をどう描くか

日本オイルポンプは1919年創業。100年以上にわたりポンプの製造・販売を手がけてきた。主力製品は工作機械向けのクーラントポンプで、高速機械による部品加工工程において潤滑用途として使われてきた製品群である。売上全体の約7割を占め、同社の事業基盤を形成している。

この事業を支えてきたのが「補用」と呼ばれる分野だ。設備の修理や、ポンプ故障時の置き換え需要を中心に、既存設備に紐づいた安定的な受注を積み上げてきた。阿部氏は、補用品分野で同社が選ばれ続けてきた理由として、長年の実績がもたらした信頼の蓄積を挙げる。

「100年続いてきた企業であるという点は、一つの強みです。特に補用品の場合、ポンプが何らかの理由で故障すると、ほぼ100%の確率で再び弊社のポンプをご用命いただいています」

長期間にわたって使われてきた実績の積み重ねが、「次も日本オイルポンプ」という選択を顧客側に根付かせてきた。

近年は、ポンプの前段にクーラント液を浄化するフィルターを内蔵した「フィルター一体型ポンプ」も新たな製品群として展開している。売上規模はまだ限定的だが、既存技術を生かした付加価値提案として実績を積み上げつつある。成熟した市場に向き合いながらも、製品開発による差別化を模索してきた。

もう一つの柱が油圧モーター事業である。油圧源を利用してモーターを駆動する仕組みで、船舶分野では網を巻き上げるリール、身近な例ではゴミ収集車の後部回転部など、電気が使えず油圧が確保できる環境で用いられている。この分野が売上全体の2~3割を占める。

クーラント分野では、製品供給に加え、長年の経験に基づく提案力も強みとしてきた。

「クーラント関係は長く取り組んできた分、現場の事情も含めた知見があります。お客様の困りごとに対して、運用面も含めたアドバイスや解決策を提案できる。その積み重ねが、長いお付き合いにつながっているのだと思います」

単に製品を納めるのではなく、課題解決のプロセスに関与してきたことが、取引の継続性を支えてきた。

こうした事業ポートフォリオは、同社に安定した収益基盤をもたらしてきた。一方で、この延長線上だけで成長を描こうとすると、日本国内市場を前提とした拡大には限界も見えてくる。新分野への進出も選択肢となるが、事業規模を大きく押し広げるには制約が伴う。阿部氏は、国内で培ってきた技術や信頼を土台に次の成長ステージを目指すのであれば、海外市場に目を向ける必要があると考えるようになった。

その判断を後押ししたのが、近年の海外市場環境の変化である。同社は中国向けにも製品を供給してきたが、コロナ後の中国経済低迷を背景に、エンドユーザーからのコストダウン要求が一段と強まっている。日本での製造を前提とした体制では、そうした要請に応え続けることが難しくなりつつあった。

コスト構造の見直しを含めた対応策として浮上したのが、ベトナムでの事業展開である。2023年に進出を開始し、まずは工場から立ち上げる方針を定めた。製造移管を起点に、現地でのサプライチェーン構築を進める段階へと踏み出している。

風力発電用ポンプ➀
風力発電用ポンプ➁

なぜベトナムだったのか

海外展開を検討するにあたり、同社が最初に直面したのが進出先の選定だった。ASEANには複数の候補国がある。その中からベトナムを選んだ理由について、阿部氏は自身の海外経験を挙げる。

「以前、シンガポールに駐在していた時期があり、その頃から東南アジア全体を見ていました。当時から、タイには自動車産業がかなり入り込んでおり、市場としてもすでに大きくなっているという印象がありました。新たに市場を広げていくことを考えると、相対的にベトナムのほうが魅力的に映りました」

2020年以降、タイでは市場の成熟がさらに進み、賃金水準も上昇している。新たに製造拠点を構える場所として検討した場合、コスト面や将来の拡張余地を考えると適さないと判断したという。マレーシアについても、市場としての魅力は感じつつ、宗教や政治の要素、華僑主導の経済構造を踏まえると、事業運営の難易度は高いと見た。

それに対して、ベトナムは親日的な国民感情を持ち、経済成長が続き、人口も増加している。「成功するかどうかは正直わかりませんでしたが、一度挑戦してみたいと思いました」と阿部氏は振り返る。

2023年に工場を建設し、2024年に営業許可を取得。2025年から本格的な営業活動を開始した。顧客の中心は日系商社で、ローカル代理店とも連携しながら販売を進めている。

現在、ベトナム工場で主に製造しているのは、中国向けの風力発電関連製品である。風力発電設備に組み込まれる増速機、いわゆるギアボックス内部の潤滑用ポンプだ。日本で生産してきた既存製品を、コスト面の制約を背景にベトナムへ製造移管した。

製造移管を進める過程で特に重視したのが、部品調達とサプライチェーンの構築だった。2023年の立ち上げ期には、阿部氏自身が毎月のようにベトナムへ足を運び、現場対応にあたった。

「どこから手を付けていいのかわからない状態でした。まずは、これまで取引のあった日系企業で、すでにベトナムに進出しているところから関係を広げていきました。サプライチェーンづくりと販売体制の構築に、最も力を注いだ一年でした」

日本のベトナム大使館、現地の投資関係者、日系商社のネットワークなどを通じ、サプライヤー候補を一社ずつ訪問したほか、ベトナム国内で開催されていた「FBCものづくり商談会」にもバイヤーとして参加した。

「そこで多くのサプライヤーや加工業者と知り合いました。今も取引が続いている会社もあります」

ローカルの加工業者についても、紹介を通じて複数社を回った。ただ、その過程ではコミュニケーション面での難しさも感じたという。日本語を話せる人材がいる場合もあったが、意思疎通が十分とは言えず、英語で会話していても、どこまで正確に伝わっているのか不安が残る場面があった。

一方、日系企業であれば日本語でのやり取りが可能で、日本語に堪能なローカルスタッフもいる。一次サプライヤーを介して二次、三次サプライヤーへと情報を伝える際も齟齬が生じにくく、その点が安心材料となった。

現在は、一次サプライヤーを日系企業とし、二次・三次サプライヤーの選定は一次サプライヤーに委ねる体制を取っている。品質検査を終えた状態で部品が自社工場に納入される仕組みだ。

「日系企業は、日本の技術や管理手法をそのまま持ち込んで事業を行っているケースが多い。その意味では、安心して任せられるサプライヤーだと考えています」

立ち上げ当初は一部部品を日本から供給していたが、現在はすべて現地調達に切り替わった。大きなトラブルは発生しておらず、品質も安定している。ベトナムでの組み立てが原因となるクレームも出ていない。

ベトナムの人材については、「全体として真面目な人が多い」という印象を持っている。実務を進める中では、知識やスキルの水準をどう見極めるかに悩む場面もあった。仕事に対して真摯に取り組んでいることは伝わってくるものの、その理解がどこまで整理され、経験としてどの程度身についているのかは、外からは分かりにくい。

「ただ、とても勉強熱心で、何でも吸収しようとする意欲が伝わってきます。今後知識や経験を積み重ねていくことで、その真面目さが強みとして発揮され、仕事の質も大きく向上していくと思います」

価値を積み上げる拠点へ

ベトナムの人件費について、阿部氏は現時点では「安い」と感じているが、中長期では上昇を見込んでいる。

「今は安いと感じますが、経済が発展すれば、中国やタイと同じように賃金水準は上がっていくと思います」

現在、ベトナム工場で扱う製品の多くは中国向けで、価格引き下げの要求が続いている。安価に製造できることが、ベトナムで生産する理由の一つであるのは確かだ。ただし、コスト優位だけを前提とした体制がこの先も維持できるとは考えていない。

「日本で設計したものを、安く作れるからベトナムで作っている。その前提が変わったときに、ベトナムで作る意味をどう見出していくのか。そこはこれから向き合うテーマになります」

阿部氏は、ベトナムを取り巻く事業環境についても冷静に見ている。チャイナプラスワンの流れの中で中国企業の進出が進み、中国製品や中国の価格水準を意識せざるを得ない場面が増えてきた。従来は想定していなかった市場構造の変化が生まれつつあり、その点は現在のベトナム市場における懸念材料の一つだという。

オイルポンプの分野でも、中国製のコピー製品はすでに流通している。価格を重視して、そうした製品に切り替える動きが一定程度あるのも事実だ。市場を分けて見ると、日系企業向けでは安価品への置き換えは限定的で、取引は比較的安定している。一方、ローカル企業への展開を考えると、ポンプ単体を売り込むだけでは難しく、価格以外の価値や付加的なソリューションをどう組み合わせていくかが重要になる。

こうした環境認識を踏まえたうえで、阿部氏はベトナム市場に対して前向きな見方を示す。

「中国企業や韓国企業との競争になる場面はあるかもしれません。ただ、それ以上に、弊社の製品を広げていける余地のある市場だと感じています。日本とは求められるものが異なる部分もあり、現地のニーズを吸収しながら自社で設計し、新しい製品を投入できるようになれば、ベトナムでも十分に戦っていけると考えています」

請負的な製造拠点にとどまらず、どのように付加価値を積み上げていくのか。同社の取り組みは、すでに次の段階に入りつつある。

今後、ベトナム進出を検討する中小製造業への助言を求めると、阿部氏が挙げたのが「人とのつながり」だった。自分自身がどれだけコネクションを持っているかよりも、幅広いネットワークを持つ人とどう関係を築くかが重要になるという。「誰か紹介してほしい」「こういうことをやりたいが、ベトナムで適任者はいないか」。そうした相談ができる相手がいれば、物事は想像以上に早く進むと感じている。

一人で探そうとすると限界がある。立ち上げ期には、さまざまな人を紹介してくれる存在が大きな支えになる。加えて、困ったときに助けてもらえる関係性も欠かせない。阿部氏自身、商談に限らず私的な相談にも応じてくれる知人が海外に複数おり、そうした助言や後押しを受けながら、現地での人間関係を少しずつ広げていったと振り返る。

事業を進めるうえで、人との関係は大きな力になる。そのつながりをどう生かし、いかにスムーズに立ち上げていくか。そこに意識を向けることが重要だと語る。

最後に今後の展望を尋ねると、阿部氏は同社の歩みと、これからの方向性を重ね合わせるように語った。

「日本オイルポンプは創業以来100年以上にわたり事業を続けてきましたが、これまでの成長は主に日本国内市場を軸に築いてきました。いまも事業の土台は国内にあります。その一方で、次の成長を描くためには、視野を海外にも広げていくことが自然な流れだと捉えています。現在、海外売上比率は全体のおよそ30%です。これを将来的に50%まで引き上げたい」

この方針のもと、ベトナムでの事業展開を進めるとともに、2025年にはメキシコにも駐在事務所を設けた。拠点を段階的に広げながら、海外での事業基盤づくりを着実に進めている。

「“世界の日本オイルポンプ”を目指して、さまざまな布石を打っていく。それが今の基本戦略です」

日本で培ってきた技術と信頼を土台に、次の100年をどう描いていくのか。ベトナムは、その可能性に挑み、少しずつ形にしていくための舞台となっている。

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