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ベトナム裾野産業の未来 日本企業との協力で目指す新たな成長
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ベトナム裾野産業の戦略的位置づけと政策目標
ベトナム政府は裾野産業を国家の重点育成分野として明確に位置づけている。2030年までに、裾野産業関連製品で国内の生産・消費需要の約7割を賄い、工業生産額全体に占める割合を14%まで引き上げる方針だ。加えて、国内の組立メーカーや外資系多国籍企業へ直接部品供給が可能な企業を約2,000社育成するという具体的な数値目標も設定されている。対象となる分野は、機械製造、自動車、電子機器、履物、繊維・衣料、ハイテクの6領域であり、これらを成長の柱として産業基盤の高度化と国際競争力の底上げを狙っている。
ベトナム裾野産業の現状と構造的課題
統計総局の公表データによれば、2022年末時点におけるベトナムの工業関連企業数は約12万7,500社に達している。そのうち加工・製造業が約11万4,700社を占め、全体の9割以上を構成する。一方で、ハイテク分野に分類される企業は12%強にとどまり、依然としてローテク企業が過半数を占める産業構造が続いている。

製造業のサプライチェーンを俯瞰すると、ティア2およびティア3に該当するサプライヤーの比率が非常に高く、その多くは地場の中小企業である。これらの企業は、比較的付加価値の低い部品やコンポーネントの製造を主業務としており、高付加価値領域への展開は今後の大きな課題となっている。

ハイテク輸出拡大と付加価値のギャップ
ベトナムのハイテク製品輸出は著しい伸びを示しており、輸出全体に占める比率は2010年の13%から2020年には42%へと拡大した。しかし、国内で創出される付加価値の割合は2020年時点で32%にとどまり、10年間での上昇幅は限定的である。この背景には、設計や中核技術を外国企業に依存し、ベトナムが主に組立と輸出を担う立場にあるという構造的要因が存在する。その結果、利益の多くが国外に流出している点は否めない。

セクター別に見る裾野産業の実態
部品製造分野
部品製造分野では、生産付加価値は約9億6,300万米ドル規模に達し、2,200社を超える企業が機械設備の製造・輸出を支えている。この分野は、高付加価値型と低付加価値型の活動に二極化しており、前者は主に外資系企業や国内大手がティア1サプライヤーを通じて展開している。一方、後者は多数の中小企業が担っているものの、生産性向上が進まず、いわゆる「低生産性の罠」に直面している企業も少なくない。
電子分野
電子分野は優先育成対象の一つとして急成長を遂げ、輸出面でも大きな存在感を示している。この産業は経済成長を牽引し、他産業への波及効果も大きいが、付加価値の源泉は依然として外国企業に依存している。国内企業は主に組立・加工工程を担うケースが多く、収益性や持続的成長の面で課題が残る。周辺国と比較しても、国内付加価値の水準は相対的に低いのが実情だ。

サムスンを中心とした電子産業の集積
ベトナムの電子製品生産と輸出を語る上で、サムスン電子の存在は極めて大きい。同社は2008年以降、主要投資家としてベトナムに製造拠点を展開し、タイグエンおよびバクニンの両工場は世界最大級の携帯電話生産拠点となっている。これらの拠点はグループ全体の携帯電話生産量の約半分を担っている。
高度な技術を要するIT機器の大量生産は、関連サプライヤーの集積を促し、裾野産業の成長を後押ししてきた。2022年時点で、サムスンと取引を行うサプライヤーは28社に上り、その多くは北部地域に拠点を置く韓国系FDI企業やグループ関連会社である。ベトナム企業は主としてティア2、ティア3の立場でサプライチェーンに参画している。
世界市場を見据えた進化と国際連携
ベトナムの裾野産業は、従来のOEM依存から脱却し、ODMへの移行を進めつつある。さらに一部企業では、自社ブランドを持つOBMへの挑戦も始まり、新たな成長機会を模索している。ただし、先進国との技術力やノウハウの差は依然として大きく、国際的な協力関係の深化が不可欠である。
今日のグローバル経済においては、単なる外注関係ではなく、相互の強みを活かす戦略的パートナーシップが求められている。外国企業の高度な技術力と、ベトナムの豊富かつ柔軟な労働力を組み合わせることで、国際市場に通用する高品質な製品開発が可能となる。
日本企業との協力が果たす役割
日本はベトナムにとって包括的戦略パートナーであり、自動車、電子、精密機械といった主要分野の発展に深く関与してきた。日本政府の支援プログラムを通じ、ベトナムの製造業は技術力、管理能力、工場運営の改善に向けた専門的な支援を受けている。
実際、近年成長を遂げているベトナム資本100%の企業の多くは、在ベトナム日系企業との協業を通じて品質や技術水準を高めてきた。経営層には日本での就学・就業経験を持つ人材も多く、両国をつなぐ重要な役割を担っている。日本企業は技術指導や管理ノウハウの共有、技術移転を通じて、ベトナム企業の成長を支える不可欠な存在となっている。
今後の協力余地と成長分野
ベトナム裾野産業協会(VASI)の分析によれば、特に協力と発展の余地が大きい分野として、金型製造、薄板プレス、PCB・電子加工、表面処理、熱処理などが挙げられている。これらの領域では、技術力や品質管理、QCDSEの安定確保が課題となっており、日本企業が強みを持つ分野との親和性は高い。
米中関係の変化、新たな自由貿易協定、脱炭素(ネットゼロ)への対応といった国際環境の変化は、日越企業に新たなビジネス機会をもたらしている。今後は、単なる発注・受注関係を超え、世界市場を見据えた共同生産や開発パートナーとしての関係構築が、両国企業の持続的成長を支える鍵となるだろう。
