
業界特集

株式会社アルファーテック(神奈川県横浜市)
掲載企業株式会社アルファーテック
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主要3品目
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細穴放電加工用電極
医療機器部品(芯金・カテーテル用ワイヤー)
コンタクトプローブピン
技術開発と市場開拓で2度の逆境を乗り越える―小径センタレス加工への「選択と集中」
株式会社アルファーテックの創業は1989(平成元)年。昨年2024年には創立35周年を迎えた同社だが、その歩みは決して平坦なものではなかった。
同社を立ち上げたのは6名の技術者達。同社代表の大野氏が就職したとある鋼材問屋の倒産をきっかけに、その加工部門の主力事業であったドットピン(ドットインパクト方式のプリンタに使われる直径0.2mm程度の印字ピン)の加工を引き継ぐために若手だけで独立した。しかし創業数年目にしてレーザープリンタなどの新しい方式のプリンタが台頭しドットピンの需要は激減。一転して窮地に陥った。

新たな市場開拓の必要に迫られた同社は、「細い」という共通点を持つカラーテレビ用金型の段付きコアピン加工に参入した。無事受注につながり経営の危機は脱したものの、3万本という大ロットの製造で現場は疲弊していた。そこで同社では段付きピンの効率的な加工方法を考案。従来「粗加工」「仕上げ」「切断」の3工程を要した加工を1工程にまとめることで大幅な効率化を実現した。この方法を応用し、インクジェットプリンタのノズル穴開け用マイクロパンチや、半導体の検査装置に使われるコンタクトプローブの加工なども手掛け取引先の多角化を図った。
同社に訪れた2度目の窮境は2000年代初頭のITバブル崩壊だった。コンタクトプローブをはじめとする電子部品関連の需要が激減し、一時は赤字にも陥った。そこで同社は強みである「細さ」を活かし、ディーゼルエンジンのコモンレール用穴開け加工電極の製造を受注。これは60μm~100μmという超小径の超硬ストレートピンで、このピンを安定的に量産できる技術を確立したことで再び経営の安定を取り戻した。
高い課題解決能力で「小回りの利く」受託加工を実現―「できない理由を考えるのをやめる」という考え方
株式会社アルファーテックが手がけるのは主に直径0.5mm以下を中心に、最大でも1mm前後までの小径のセンタレス加工だ。同社では最小で直径30μm、先端部では6μmの細さまで加工できる技術を確立しているが、これは研削盤のカタログスペックよりもさらに1桁小さいもの。研削盤メーカーの担当者に「どのように加工しているのか逆に教えてほしい」と言わしめるほど細い領域にこだわることで他社との価格勝負を避け、ニッチトップの座を不動のものにしている。
また、同社が使用するセンタレス研削盤は多くが汎用機であり、段取りと生産技術の工夫で様々な形状や公差に対応できるのも強みのひとつだ。「お客様の満足を一番に考え『小回りの利く』対応を目指しています」と大野氏。高い技術力で顧客のニーズに寄り添い、少量多品種生産から月産数万本レベルの量産まで柔軟に対応している。
様々な製品を手がける同社の圧倒的な課題解決能力を支えているのが、「できない理由を考えるのをやめる」という考え方だ。「試行錯誤をしているうちに突破口が見つかるものも多いため、あきらめずに立ち向かうことが重要だと弊社代表がいつも社員に説いています」と大野氏は解説する。技術者として自ら研削盤を操り、2度の経営危機から会社を立て直した同社代表の背中を見て育った技術者たちの手によって、ハイレベルのものづくりを実現しているのだ。
能動的な営業活動で医療分野にも進出―材質の壁を乗り越え、さらなる多角化を実現
株式会社アルファーテックでは2013(平成25)年から医療分野の製品加工も手掛けている。展示会に出展し顧客からニーズを集める能動的な営業活動が実を結び、カテーテル用ワイヤーを受注したことで業界への参入に成功した。
医療分野の製品加工にあたって直面した課題は材質の違いだ。同社が長年手がけてきたピンや電極といった製品は、ハイスや超硬合金といった高硬度の材料がメインだ。これに対し医療機器は主にSUSやニッケルチタン合金(ニチノール)といった比較的柔らかい材質が使われているため、新たな加工条件の確立が必要となった。特に難削材であるニッケルチタン合金の研削では砥石が想定以上に早く摩耗してしまうなどの問題にも直面したが、試行錯誤を重ねた同社の技術者たちによってこの問題を克服。2023年には「センタレス加工技術における医療分野への展開」として神奈川工業技術開発大賞の奨励賞も受賞した。


医療分野の製品は評価に1年、認証にさらに1~2年とタイムスパンが非常に長い案件が多い。粘り強さが求められるこの分野の加工技術開発は、若手の技術者が中心となって取り組んでいるという。
今後について大野氏は「医療分野はさらに伸ばしていきたいと考えています。それ以外にもいま相談をいただいている案件の中には新規性が高いものも多いため、お客様が量産にたどり着くまで手を抜かずに進めていきます」と語る。
創業以来幾多の逆境を乗り越えてきた株式会社アルファーテック。その唯一無二の技術と不撓不屈の精神はこれからも日本の製造業に新たな可能性をもたらし続ける。