業界特別企画
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世界のサプライチェーンが大きく変化する中、ベトナムの製造業は新たな役割を担い始めている。今回のEMIDAS Magazineのベトナム特集では、現地に進出する日系企業やベトナムの製造企業への取材を通じて、ベトナム製造業の現在地を探った。企業の取り組みを見ていくと、ベトナム製造業の姿は数年前とは明らかに変わりつつある。かつては低コストの生産拠点として語られることの多かったベトナムだが、現在は世界市場と直接つながる製造拠点としての存在感を高めている。本稿では、今回の特集で紹介した企業事例を整理しながら、ベトナム製造業の現在の特徴と今後の可能性を考えてみたい。
特集から見えてきた3つのポイント
今回の特集取材を通して見えてきたのは、大きく分けて次の3つのポイントである。
1. ベトナムが欧米向け輸出の重要拠点として存在感を高めていること。
2. ベトナム国内での調達環境は分野によって大きく異なること。
3. 欧米向けの販路拡大に活路を見出している企業が出てきていること
FUJIFILM Optics Vietnam、日本オイルポンプ、日新電機ベトナム、TSUKUBA DIECASTING VIETNAM、ファインネクスベトナムなどの企業事例を見ていくと、これらの変化がより具体的に見えてくる。
世界の製造拠点としてのベトナム
まず注目すべきは、ベトナムの輸出構造の変化である。近年、ベトナムからアメリカやヨーロッパ向けの工業製品輸出が大きく増加している。特にPCや家電など電子機器分野の輸出は好調で、ベトナム経済を支える重要な柱となっている。

Samsung Electronics Vietnamなどの大型生産拠点を中心に、多くの電子機器メーカーがベトナムで製造した製品を欧米市場へ輸出している。これらの企業はベトナム国内にサプライヤーを抱え、部品調達から組立までのサプライチェーンを形成している。こうした産業集積が進むことで、ベトナムは単なる低コスト生産拠点ではなく、世界市場へ製品を供給する製造拠点としての位置づけを強めている。グラフを見ると、スマホ、家電などの分野においては、輸出高-輸入高の差額が年々大きくなっており、国内で付加価値を付けられるようになってきていることがうかがえる。

電子機器だけでなく、機械部品や金属加工の分野でもベトナムの存在感は徐々に高まっている。ベトナム国内には日系企業やローカル企業を含めた多くの加工企業が存在しており、製造業の裾野産業は着実に広がっている。
サプライチェーン再編の受け皿
こうした変化の背景には、世界の製造業に広がるサプライチェーン再編の流れがある。米中関係の変化や地政学リスクの高まりを受け、多くの企業が中国一極集中の生産体制を見直し、生産拠点の分散を進めている。その受け皿の一つとして注目されているのがベトナムである。
FUJIFILM Optics Vietnamはその象徴的な事例の一つだ。同社は光学機器の部品生産をベトナムで行い、グローバル市場向けの供給体制を構築している。ベトナム拠点を単なる組立工場ではなく、サプライチェーンの一部として位置付けている点が特徴的である。
ただし、光学部品のような高精度分野では現地調達の難しさもある。高度な加工精度や品質管理が求められる分野では、対応できるサプライヤーがまだ限られているという現実もある。これはベトナムの裾野産業が発展途上であることを示す一面でもある。
分野によって異なる調達環境
一方で、ベトナム国内での調達が比較的進んでいる分野もある。日本オイルポンプ株式会社の事例では、機構部品などの金属加工分野ではベトナム国内のサプライヤーの存在感が高まっていることが分かる。
日系企業の進出による技術移転やローカル企業による設備投資の進展により、加工分野の技術力は着実に向上している。実際、ベトナムの加工企業の中には、日本企業の厳しい品質要求に対応できる企業も増えてきている。
つまりベトナムの調達環境は一様ではない。光学部品のような高度精密分野ではまだ課題が残る一方で、機構部品などの金属加工分野では調達の選択肢が広がっているという状況が見えてくる。
サプライヤーの現場
サプライヤー側の視点で見ると、また別の課題も見えてくる。日新電機ベトナムでは、多品種少量の部品製造に対応するため、日々膨大な数の図面を処理している。顧客ごとに仕様が異なる部品を製造するため、技術者は図面を確認しながら加工方法を検討し、生産を進めているという。
こうした柔軟な対応力は日本企業から高く評価されているが、案件が増えるほど現場の負担も大きくなる。生産管理を一貫して行う事の出来るシステムの構築や効率化、技術者の育成などが必要であり、日新電機ベトナムは超多品種少量生産を見事に実現していた。


新しい市場への挑戦
TSUKUBA DIECASTING VIETNAMは、ダイカスト製品の製造を中心とする企業だが、新しい市場や顧客の開拓にも取り組んでいる。製造業では特定の顧客への依存度が高くなると、市場環境の変化に対応しにくくなるため、新しい販路を広げる取り組みが重要になる。
特にベトナム工場が率先して自動車産業に参入をし、10年足らずで世界中の自動車メーカーとの取引を実現している様子には驚かされた。
ベトナムから世界市場へ
ファインネクスベトナムは精密金属加工を強みとし、欧米市場へ直接製品を輸出している。ベトナム拠点から世界市場へ製品を供給する体制を築いており、ベトナム製造業の新しい可能性を示している。欧米の商習慣を理解した上での販路開拓により、多数の企業からの日常的な受注を生み出していた。
出会いが生むビジネス
今回の特集を通して見えてきたのは、ベトナムには調達先を探す企業と販路を広げたい企業の双方が数多く存在しているということである。そうした企業同士の出会いの場として、ハノイで開催されるEMIDASものづくり商談会のようなイベントの役割は大きい。
2026年9月16日から18日に開催予定の同イベントでは、500社以上の製造企業が出展し、約30,000人の製造業関係者が来場する予定となっている。ベトナム製造業が世界のサプライチェーンの中で存在感を高める今、新しいパートナーとの出会いはこれまで以上に重要になっている。
