成長企業の経営戦略
SHINKA株式会社
代表取締役 國武 就 氏
掲載企業SHINKA株式会社
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主要3品目
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金属切削加工半導体・液晶 / 医療 / 自動車関連等
樹脂切削加工
精密板金加工
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従業員数
90人
家業に興味がなかった
「 変わらないって、よく言われますね」。SHINKA株式会社代表取締役・國武就氏がぽつりとそうもらした。
もう8年前になるが、筆者は当時NCネットワークの社員だった國武氏と会っている。ヘラ絞りを題材にした小説を執筆するため東京大田区にある絞り屋さんを取材した際、23歳だった國武氏に同行してもらったのだ。もちろん31歳になった目の前にいる國武氏が、あの頃と変わらないはずがない。しかし、内にある無邪気さや純粋さは当時のままである気がした。
23歳の國武氏は、家業を継ぐ気はいっさいないと言っていた。家業とは、2003年に父・昭しょういち一氏が創業した株式会社フュージョンである。フュージョンは熊本を拠点に、半導体と液晶の部品を九州の客先に調達する商社であった。その後、自社でも部品製造を行うようになり、鹿児島を拠点とする株式会社アスリート、福岡を拠点とする株式会社FUSOUとグループ化していった。
気持ちが通じ合うのが営業
中学生の國武氏は高校に進学したくなかった。働いているほうがカッコいいと思ったのだ。しかし、「やめてもいいから、とにかく一度行け」と昭一氏に言われ、地元熊本の高校に入学した。しかし、2ヵ月でやめてしまった。
そして、県内にある工場の検査業の仕事に半年ほど就くと、知人が起業した防犯カメラなどのシステム販売の営業会社に就職した。
「今も営業をしているわけですが、営業という職種が自分に合っていると思ったことはありません。“はじめましての人”と会うのが得意ではないからです。あの頃は、苦手を克服したいという意識から営業職を選びました」。
毎日200本のアポ電をしても、商品を売るどころか1本のアポすら取れない。そんな中、さまざまな施設を経営する社長に営業する機会を得た。相手から、「もしも夜、うちの施設に刃物を持った人間が現れたら、きみはどうする?」と訊かれ、「僕が24時間カメラで監視して、すぐに駆けつけます」と思わず応えた。出まかせに近かった。しかし、社長は笑って、「あんたが気に入ったから買ってやる」と言い、全施設への搬入が決まった。この経験から、営業は技術の知識量ではなく、相手と気持ちが通じ合うことが大切だと悟った。
グループ会社が競合他社に
中学卒だと就ける職種が限られることから働きながら夜間高校に通っていた。そして、営業の仕事をして2年が経ち、高校卒業とともに昭一氏に3社の就職先を紹介された。そのうちの1社、NCネットワークに就職を決めた。
「あの頃、I T系かコンサル系の会社に興味がありました。父から紹介された残り2社は製造業だったのでNCネットワークに決めたんです」。
ここでもやはり営業職に就いた。会員へのサポート、WEBマーケティング、リアルイベントなどに携わる。ここで出会った多くの製造業経営者からは、「叱られながら学んだという感じです」と振り返る。
NCネットワークで働くこと5年。多くの先輩社長から受けた影響もあったのだろうか、「せっかくの人生だし、一度は社長をやってみたいと思うようになりました。それなら、家業というフィールドもあるんだし、やってみるかと」。
昭一氏にフュージョンに入社したいと伝えると、「会社を継ぐ、継がないは、おまえが決めるものじゃない。ダメだったら、ほかに譲る選択肢もある」と言われた。2019年4月、國武氏は一社員としてフュージョンに入社。部品調達営業を行った。「相変わらず苦手意識はあるんですけど、ずっと営業をしてます。きっと半分は楽しいのかな、と思うようになりました」。
そのフュージョンの営業だが、やってみると、グループ会社のアスリートとFUSOUが競合することが度々あった。「グループ会社同士で、価格の落とし合いをしていたんですよ」。
目の前の現実もだが、國武氏はグループ3社における製造現場の未来像が描けなかった。拠点ごとにやり方と管理が違う組織で、はたして将来的に運営が可能なのか?
國武氏はまず、拠点ごとに異なる営業をすべてひとつにまとめることから着手した。2021年3月、営業部門を独立させたSHINKA株式会社を27歳で創業。「感覚的には起業というより、2代目として引き継ぎ、責任が重くなるぞというイメージでした」。
2023年12月、フュージョングループは、SHINKAのほか熊本のSHINKA Force株式会社、福岡のSHINKA Force福岡株式会社となり、昭一氏は経営から完全に離れた。SHINKAで営業と案件管理を行い、グループ2社は製造のみを行う。協力会社が県外を含め80社あるのも強みだ。協力会社には、NCネットワーク時代につながりを持った会社も数多い。
ここに至るまでに、ひとりを残して課長以上の管理職を刷新した。「代替わりのタイミングでは、やはり離れていってしまう管理職もいました。2代目、3代目が番頭さん的な社員と合わないケースは間々ありますが、うちはありがたいことに、そんな中でも先代の右腕的存在の社員が以前と変わらない情熱を持って、改善を一緒に行ってくれました。管理職以外でも、先代からの勤続10年以上のベテラン社員は一人も辞めず、引き続き会社を支えてくれています」。
さらにこうも語る。
「管理職に人選するのは、仕事ができる人ではありません。社長と同じ方向を見てくれる人です。営業なら案件を取ってくる人、製造ならマシニングの技術が優れた人、そうした実務能力があることと、マネージメントは別だからです。今の管理職は、間違いなく同じ方向を見ている人たちだと自信を持って言えます」。すべてを新しくしたわけではない。製造業だがサービス業であるという精神。即日対応・即日見積、短納期対応という対応力。これらフュージョン創業以来の文化とスタイルは継承している。
「目指すは強くて優しい会社です。二宮尊徳の言葉に「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」というものがあります。収益はあるが仕事は楽しくないではなく、仕事は楽しいけれど収益がないでもない。両方を得て、従業員や取引先、地域に喜んでもらえる真に価値のある会社にしたい。そのために2030年度までに売上高成長率150%を目指します。この数字は、オンリーワンではなく、ナンバーワンになりたいという気持ちの表れなんです」。國武氏が浮かべた笑みには、無邪気さと純粋さのほかに、紛れもなく強靭さが加わっていた。
昨年11月末、本社工場を移転し建屋を竣工した。全面ガラス張りの外装、天井の高い内装の建物である。ナンバーワンを実現する夢工場だ。
経営者の素顔
趣味はこれから見つけようかな、と思ってます。休日は、普段できない金融機関との込み入った打ち合わせをカフェでしたり、協力企業さんとWEBで夢を語り合ったりしてます。あとは、2匹飼っているチワワと公園で遊んでます。