成長企業の経営戦略

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【製造業の競争力強化戦略/プレス加工・金型製造会社編】ホールディングス化により、グループ会社の弱みを補完し合いながらシナジー創出。—技術革新を止めない経営— 

掲載企業新栄ホールディングス 株式会社

主要3品目
  • 金属プレス加工

  • 精密金型・治工具類の一貫生産

  • 精密部品・組立

 プレス加工と金型製作を展開する新栄ホールディングス株式会社(東京都中央区)は、傘下にある3社の技術とノウハウ、それぞれの企業文化の中で育まれた6つの力をグループで共有し、課題解決型ものづくり企業として、強靭な経営で攻める。

 新栄ホールディングスの前身は1979年創業の株式会社新栄工業(千葉県千葉市)だ。同社はサポートブラケットを中心とした金属プレスと金型製作を行う。2014年に前社長から経営を引き継いだ代表取締役社長の中村 新一氏は、2019年12月にEV関連など自動車系パーツ部品の精密金型・治工具類の設計製作からプレス加工・組付作業を行うアポロ工業株式会社(埼玉県吉川市)を資本提携によりグループ化。3年後には医療系を含めた精密部品を中心に試作から小中ロットの量産生産をフレキシブルに対応する飯能精密工業株式会社(埼玉県飯能市)を傘下に据え、2023年に「新栄ホールディングス」を設立した。代表取締役社長CEOの中村氏は経営課題を解決するために、グループ各社の「強み弱み」を補完する共存共栄型M&Aを採用されており、その実態についてお話しをお聞きした。

グループ企業紹介

【M&A事例① 2019年12月 アポロ工業株式会社/金型製造】

 中村氏が新栄工業に入社した頃、プレス加工業務において日常的に使用する金型の修理を満足にできない社内の金型に対する知見、技術の未熟さに愕然としていた。しかし会社の喫緊の優先事項は、本業の生産管理・生産統制であり、当時はそちらへの注力が優先だった。しかし後年、金型事業の確立が必要になったものの独自で技術者の育成は困難と判断し、金型企業のM&Aを検討することとなった。

 一方アポロ工業株式会社は、2017年頃、リーマンショックや東日本大震災の影響により、週休4日となり、売上も2割減少。そのような状況下、職人気質で経営があまり得意ではなかった同社社長は、自身がこのまま社長を継続しても業績回復は難しいと判断し、後継候補の小田省一氏(現新栄ホールディングス取締役)と相談した結果、他社との資本提携という選択肢を選んだ。

 そのような背景により、新栄工業がアポロ工業の株式を全て譲り受けることとなった。当時のアポロ工業は苦境に立たされながらも必死に開発を行ってきたEV車向けドライプレス加工の受注が成長軌道に乗り多忙を極めていた。中村氏は、アポロ工業の社員と信頼関係を構築し、さらに幹部社員を対象に、週1回以上の定例会開催を継続した。

 M&Aをした当初は労災事故や社内派閥などの問題もあり、紆余曲折はあったものの、中村氏が必死に取り組む姿や姿勢を従業員に提示し続けることで、社内は変化し、結果的に社員皆が一丸となって取り組む組織に変化した。

<本M&Aのポイント>
 ・新栄工業にとってのメリット:金型製造技術の補完
 ・アポロ工業にとってのメリット:事業承継の実現、社内体制の整備
 ・元役員の処遇:元社長は会長に就任、元後継候補の息子は取締役に就任
 ・中村氏が重視されたポイント:M&A後の体制づくり 【ワンポイント解説】 本件はM&A後の従業員との関係構築が重要ポイントです。M&A後の一番の障壁は【当たり前の壁】だと中村氏は感じています。今までのやり方でずっと事業を行ってきた従業員と、新社長との間で、最初から良好な関係を構築できたわけではなく、中村社長/小田取締役/従業員それぞれの努力があり、実現に至った良い事例です。

【M&A事例② 2022年12月 飯能精密工業株式会社/プレス加工】

 アポロ工業のEV部品の受注が伸び、生産能力をオーバーしたこともあり、精密プレス技術を保有する企業の買収検討を開始した。

 一方、新型コロナウイルスの影響により大打撃を受けていた、飯能精密工業株式会社(埼玉県飯能市)の2021年の売上は、最盛期の半分以下の2億3,000万円程度まで落込み、当時社長の中山久喜氏(現飯能精密工業 取締役社長)の大病も相まって、一社単独での再生は困難と考え、他社との資本提携を決意した。

 その後2022年9月、中村氏と中山氏がトップ面談を実施。中村氏にとって飯能精密工業は、中村氏の求める条件を満たすということで合意し三ヶ月後に資本提携が実現した。

<本M&Aのポイント>
 ・新栄工業にとってのメリット:
    製造拠点の確保、グループ内の受発注の融通で利益率UP
 ・飯能精密工業にとってのメリット:
   事業承継の実現、多重債務からの解放、売上の安定、賃上げ達成、外注比率の改善
 ・元役員の処遇:元社長は取締役専務に就任(2024年取締役社長に就任)
  ・中村氏が重視されたポイント:資本政策

【ワンポイント解説】
本件は多重債務の解決が最重要ポイントです。当時の飯能精密工業は銀行からの借入本数21本、借入合計は約3億円あり、かなり苦しい経営状態でした。この難局を、新栄工業とアポロ工業の与信を活かすことで、ホールディングスの設立、複数行によるシンジケートローンの組成、グループファイナンスを実現し切り抜けた。結果2023年に債務正常化を実現。M&Aは譲受側の与信力も大変重要なポイントです。

☞ M&A専門家解説 注目ワード 「PMI(Post Merger Integration)」とは?

 PMIとは、M&A後の統合作業を指します。M&Aにおいて、成約がゴールと思われがちですが、そうではありません。成約はあくまで両社の成長戦略におけるスタート地点であり、シナジー最大化に向け一番大事なのは、このPMI工程です。近年日本においても毎日のようにM&Aという言葉を見聞きします。当然、PMIにおいても成功事例や失敗事例の情報が蓄積される中、各企業が成功を目指しPMIに取組んでいます。今回取材させて頂いた中村社長は、PMIを攻めと守りに区別し推進されているそうです。

・攻めのPMI:事業シナジー創出 ※例:設備投資を実施し、並行生産を達成(3ヶ月)
・守りのPMI:民主化された賃金体系の実現
  ※理想の流れ:組織作り⇒目標管理⇒評価制度⇒賃金制度

中村氏は、上記を念頭に、具体的には以下PMI作業を実行されています。

◆ 基本事業シナジー:前述事例に記載の通り(主にビジネス面でのシナジーになります)

◆ 全社員との面談実施:M&A成立後、まずは本件の経緯、今後の方針などを全社員に伝える。当然考え方の合わない従業員もおり、実際に退職した従業員もいましたが、ここは中村氏から方針や意図を伝える最大限の努力をした上で、どうしても会社のやり方に納得がいかない方が退職されるのはしょうがないという覚悟で進められました。 

※ただし、やはり1社目(アポロ工業)より2社目(飯能精密工業)の方が中村氏の慣れの部分もあり、PMIはよりスムーズに進みました

◆ 顧客回り及び単価交渉:前社長と各取引先への挨拶回りを実施。恒久的な低採算解決の為、合わせて価格改定の依頼も実施。意外にも、そんなに大変だったら言ってくれればよかったのに、という反応が多く、交渉は割と良い方向に進みました。

◆ 各拠点への定期訪問:週1回は訪問実施 ※中村氏は埼玉に新しく家を賃借

◆ 従業員待遇の見直し:詳細は記載できないものの、主に人事制度の見直しを実施

 上記が取組一例です。中村氏は、それぞれの企業がお互いの「強み弱み」を補い合うという「共存共栄型M&A」を念頭に、PMIにおいては事業シナジーの最大化と、HD経営における組織力の強化、に取り組んでおられます。今後も中村社長の取り組みには要注目です。

【中村社長の今後の戦略】

株式会社新栄工業
代表取締役 中村様
  1. HD経営を極める
  2. 5年後に年商30億円
  3. 金型事業化の達成(平準化は実現、今後は工場建設含め計画中)

 中小企業は技術至上主義に傾倒しがちであり、トップマネジメントが疎かになる傾向がある。」と中村氏は考える。経営管理を事業の中核に置く新栄ホールディングスの事業的使命は、この職人社長の強みを活かし、疎かになりがちな経営管理を一手に担う事にあると中村氏は確信している。

掲載会社情報

新栄ホールディングス 株式会社

新栄ホールディングス 株式会社

所在地
〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町16-5日本橋SGビル4階
TEL
03-5843-6096
FAX
03-5843-6097

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