成長企業の経営戦略
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挑む経営者特集 第1回 -狭山金型製作所 大場 総一郎氏- 微細技術で世界市場を拓く三代目の決断
株式会社狭山金型製作所
代表取締役社長 大場 総一郎氏
掲載企業株式会社狭山金型製作所
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主要3品目
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超精密プラスチック金型
プラスチック成型加工
短納期試作型
国内市場の縮小や国際競争の激化が進む中、日本の中小製造業には新たな成長戦略が求められている。こうした環境のなか、精密・微細領域の金型設計・製作から成形までを一貫して手がける株式会社狭山金型製作所は、グローバル市場を視野に挑戦を続けている。
1964年創業、電子部品や医療分野で求められる微細加工技術を強みに、国内外の顧客から高い評価を獲得してきた。同社を率いる三代目社長・大場総一郎氏は、先代から受け継いだ理念を礎に、世界市場を舞台とした成長戦略を推進している。事業承継を単なる世代交代ではなく、企業の可能性を拡張する機会と捉えた経営判断の背景には、日本のものづくりへの確かな自信があった。
事業承継は守りではなく“世界へ拡張する経営戦略”
大場氏が同社に入社したのは2011年。米国の大学で学び、多国籍の人々と交流するなかで、日本の技術力や文化に対する評価の高さを客観的に認識する機会を得たという。海外でキャリアを築く道も視野にあったが、自らが育った環境のなかに、世界に通用する技術があることに気づいたことが、家業である金型メーカーに向き合う契機となった。
当時すでに同社では、先代経営者のもと海外展示会への出展を開始しており、中小企業であっても自ら市場を切り拓く必要があるという考え方が共有されていた。
事業承継は単なる世代交代ではなく、企業の可能性をどこまで広げられるかを問われる機会でもある。大場氏は、受け継いだ技術や顧客基盤を礎に、成長の方向性を世界市場へと拡張する意思決定を行った。
外の視点を得たことで、自社の技術が持つ価値をより客観的に捉えることができたという。精密・微細加工を強みとする日本の金型技術は、医療や電子部品など高度化が進む分野において依然として高い評価を受けている。既存事業を継続するだけでなく、その価値をどの市場で発揮できるかを考えることが、次の成長につながると判断した。


社長就任は試練から始まった
2023年に社長へ就任したタイミングは、コロナ禍による営業機会の減少や開発案件の停滞など、経営環境として決して順風とは言えない状況であった。海外顧客との対面機会が減少し、新規案件の獲得も難しい時期が続いた。しかし同社は海外展示会への出展を止めることなく継続し、将来を見据えた活動を維持した。
社長という立場になり、最終的な意思決定を担う責任の重さを実感したという。専務時代は判断を委ねる立場であったが、トップとなったことで、組織の方向性を示す役割が求められるようになった。現在は経営チームの世代交代も進め、若手中心の体制で新しい取り組みに挑戦している。厳しい局面を経験したことが、変化に対応する経営判断力を高める機会となった。
「社長という立場になると、自分が判断し方向性を示さなければならない。責任は大きいですが、その分、未来をつくる手応えも感じています。」
超精密微細加工が生み出す樹脂製注射針の革新性
同社の技術力を象徴する取り組みが、PEEK樹脂を用いた樹脂製注射針の開発である。外径0.24mm、内径0.07mmという極細構造を安定的に量産するためには、サブミクロン単位での精度を実現する金型設計技術と高度な成形ノウハウが不可欠である。先端形状に独自の丸みを持たせることで、細胞を切るのではなく押し分ける構造を実現し、痛みの軽減や低侵襲化への可能性を広げている。
この技術は顧客からの要望に応えるだけでなく、自社テーマとして研究開発を進めてきた成果でもある。ニーズを待つのではなく、自ら技術テーマを設定し発信することで、新たな市場機会を創出してきた。現在は医療分野を中心に海外案件の比率も着実に増加しており、展示会とLinkedInを組み合わせた情報発信によって商談機会の創出にもつなげている。2030年までに海外売上比率50%を目指すという目標は、日本の中小製造業の可能性を示す挑戦でもある。

次世代経営者へ ― 世界は日本の技術力を求めている
大場氏は、日本の製造業は決して衰退産業ではないと語る。国内市場だけを見れば縮小傾向にあるが、世界に目を向ければ日本の技術を求める企業は多い。重要なのは、自社の存在を知ってもらうための発信と挑戦である。現在はLinkedInを活用し、技術や思想を継続的に発信することで海外企業との接点を創出している。
また、企業単独で挑むのではなく、異なる技術を持つ企業同士が連携することで、新たな価値を生み出せる可能性も大きいという。若い世代には、経験の有無に関わらず挑戦してほしいと語る。世界にはまだ知られていない日本の技術が数多く存在する。挑戦を続ける企業だけが、新たな市場機会をつかむことができるのである。
「世界にはまだ多くのチャンスがあります。知られていないだけで、日本の技術を求めている企業はたくさんあります。若い世代だからこそできる挑戦を、ぜひ続けてほしいと思います。」
大場氏の見ている世界は、さらに輝いている。

大場 総一郎 氏
