業界特別企画
TSUKUBA DIECASTING VIETNAM CO., LTD.
掲載企業TSUKUBA DIECASTING VIETNAM CO., LTD.
アルミニウムやマグネシウムなど軽金属ダイカストを主力とする筑波ダイカスト工業(東京都北区)は1951年創業。ベトナムでは1997年に操業を開始し、現地法人ツクバ・ダイキャスティング・ベトナム(TDV)は現在、3工場体制を構える。鋳造、加工、バリ取り、塗装までを自社内で一貫して担う生産基盤を軸に、EV化に伴う軽量化需要も取り込みながら受注領域を広げてきた。この30年の展開は、設備増強の軌跡にとどまらない。初期の顧客開拓、輸出と国内販売の両立、材料調達の多元化、金型・加工の現地協業、品質システムの整備、人材運用、そして営業ライセンス更新に象徴される制度対応。事業継続に必要な条件を一つずつ整えてきた過程でもある。現地法人社長の茂木秋平氏に、その歩みを聞いた。

北部工業団地の立ち上がりとともに築いた事業基盤
ツクバ・ダイキャスティング・ベトナム(TDV)は、1995年12月にベトナムで営業ライセンスを取得し、1997年5月にハノイ市サイドンB工業団地で第1工場の操業を開始した。当時、ベトナム政府はハノイを中心とする北部で工業団地の造成を進め、外資製造業の受け入れを本格化させていた。同社の進出はこの流れと重なる。
契機となったのは、日系光学機器メーカーによる測量機向け三脚土台部品の現地生産計画である。アルミダイカストによる製造を前提に同行の打診を受け、TDVは北部工業団地の最初期に進出した外資製造業の一社として操業を開始した。
ただし、操業直後から事業環境は変動する。導入案件は中国生産へ切り替えられ、初期の受注は縮小した。代替案件を求めて二輪メーカー向けの営業を展開し、日系大手から仕事を確保したものの、同社が地場ダイカストメーカーを傘下に収めたことで案件は移管され、再び受注が細る局面を迎えた。
その流れを変えたのが、1990年代後半に北部へ進出した別の日系二輪メーカーである。継続的な営業活動を通じて取引を広げ、北部での量産体制を維持する足場を固めた。
2000年前後には、輸出加工企業(EPE)制度の導入により顧客構成が変化する。輸出専業企業に対する税制優遇を背景に日系企業の進出が進み、輸出を前提とした生産拠点との取引が広がった。国内取引に制約がある一方で、輸出入にかかる付加価値税の免除や法人税の優遇措置などが適用される制度のもと、日本の産業機械メーカーや物流機器メーカー向けの電動機関連部品など新たな需要が生まれた。
北部工業団地の立ち上がりの時期に、測量機、二輪、輸出型製造業へと顧客を切り替えながら案件をつないできた経験が、現在の事業基盤を支えている。

第1工場の増産と第2工場の展開で収益構造を転換、3工場で広げた生産領域
ツクバ・ダイキャスティング・ベトナム(TDV)は現在、アルミニウムとマグネシウムを軸に3つの拠点で生産を展開する。1997年操業の第1工場(ハノイ)を起点に、2010年には第2工場(フンイエン)を新設し、ベトナム国内で先行するマグネシウムダイカストの量産拠点として稼働を開始した。さらにフンイエン省フォーノイに第3工場を整備し、2020年7月に本格稼働へ移行。敷地4万3000平方メートルの第3工場では、アルミとマグネシウムを同一拠点で扱う体制を整えた。
マグネシウムは軽量・薄肉・剛性の面で優位性があり、PCや精密機器の筐体、自動車部品などで採用が広がる。一方で燃焼・発火リスクへの配慮が欠かせず、管理面の難度は高い。同社は加工条件と品質管理の精度を引き上げることで受注領域を広げ、設備投資へと結び付けてきた。
当初、第1工場は30~40人規模で立ち上がり、収益面では厳しい局面が続いた。転機となったのは、EPE企業のベトナム進出に伴う第1工場アルミニウム事業の拡大と、第2工場におけるマグネシウムダイカスト量産拠点の確立で、これにより事業構造が変わり、2010年前後に経営も軌道に乗り始めた。ノートPCや堅牢型端末向けの薄肉筐体など、軽量化ニーズの高い分野で量産を担い、価格競争力の観点からベトナム生産が選ばれた案件を取り込んできた。現在、従業員は1,500人を超える規模へと成長している。
フォーノイの第3工場は、最大規模の敷地を生かしてアルミとマグネシウムを併産する中核拠点である。第1工場の収益課題をマグネシウム事業で乗り越え、設備増強を積み上げてきた同社の転換を象徴する存在といえる。
TDVの特徴は、原材料調達から鋳造、後加工、塗装までを一体で束ねる工程設計にある。多品種少量や部分加工にも応じ、個数や用途、納品形態に合わせて工程を組み替える柔軟性が取引の継続を支える。鋳造からネジ穴加工、外観塗装までを同一フローでまとめることで工程間の調整を短縮し、品質のすり合わせも同時に進められる。来年には第3工場の拡張工事を経て、さらに事業拡大を目指す。
一方、マシニングなどの加工工程は設備投資とスペースの制約が大きいため、鋳造は内製を軸としつつ加工は外部委託を組み合わせる。現在は日系・韓国系・ベトナム系の加工メーカー7社と連携し、仕様やロット、精度要求に応じて案件を振り分けることで、納期対応力とコストの両立を図る。マグネシウム部品の後工程は取り扱い経験を持つ委託先が限られるため、新規取引先には手順の共有と教育を前提に対応範囲を広げてきた。

国内需要と輸出を束ね、顧客基盤を100社規模へ拡張
2000年代初頭、ベトナムではEPE(輸出加工企業)制度を活用した日系製造業の進出が加速した。輸出専業を前提に税制優遇を受ける仕組みが広がり、北部にも輸出型の製造拠点が集積した。ツクバ・ダイキャスティング・ベトナム(TDV)はEPEの適用を受けない外資企業(ノンEPE)として操業し、国内販売と輸出の双方を扱える点が営業の自由度を広げている。
国内向けでは、二輪・四輪の完成車メーカーにダイカスト部品を納入する。二輪は駆動系、四輪は車載関連製品が中心で、ローカル生産と連動した継続案件を積み上げてきた。一方、EPE企業向けには産業機械や物流機器分野の輸出案件を受け入れ、モーター関連カバーや減速機部品などを手がける。耐熱性や強度の観点から樹脂では代替しにくい領域で、アルミダイカストが選ばれるケースが多い。
さらに最近は、半導体設備やIT設備にも導入されている。
輸出案件の一部では、ベトナムで生産した部品が第三国の工場を経由して最終組立先に入るなど、複層的な物流経路が組まれる。EPE企業が国内販売を行わない制度設計のもと、供給経路を調整しながら取引が成立している。
2016年時点で約20社だった取引先は、第1工場のアルミダイカストの営業展開拡大により現在は100社規模へ広がった。売上の約半分が輸出向けとなり、国内需要と海外向けを組み合わせた収益構造へ転じている。この変化は一朝一夕ではない。客先が増えても決して既存の顧客への感謝の念を忘れずに対応し、社内では貿易実務、倉庫機能、英語対応人材といった輸出対応の基盤を段階的に整えてきた蓄積が背景にある。
ベトナム拠点を、国内需要を取り込みながら海外市場にも製品を送り出す「アウト・アウト」の生産拠点と位置づけ、顧客構成を組み替えてきた歩みがここに表れている。
自動車と小ロットを両輪に、材料と供給網を再設計
EV化の進展に伴い、アルミダイカストの用途は放熱部材を中心に拡大している。同社でも自動車関連の受注が伸び、売上の約4割を占めるまでに高まった。これに対応し、3工場ともIATF16949の認証を取得。TS規格からIATFへの移行を通じて品質保証体制を引き上げ、主要完成車メーカー向けの供給へつなげた。
ただし、自動車比率を過度に高めない方針は維持する。売上の50%程度を目安とし、それ以外の産業分野を並行して育てることで需要変動への耐性を確保する。その基盤にあるのが、少量多品種を前提とした事業設計である。量産志向の強いダイカスト産業の中でも小ロット案件に応じ、約100社規模の顧客ポートフォリオを築いてきた。
EV化は用途の広がりに加え、材料選定にも影響を及ぼす。軽量化の流れの中で鉄からアルミやマグネへの置き換えが進み、樹脂では代替しにくい領域でダイカストの需要が広がる。こうした動きの中で、原材料の安定確保は事業運営の前提となる。
インゴットはアルミやマグネを溶解・鋳造する一次材料で、スクラップと合金元素を配合して成分を整える。精錬能力と資源面で中国の存在感は大きく、かつては調達の大半を中国材に依拠していた。転機となったのは、中国の環境規制強化とスクラップを巡る政策の変化である。原料となるスクラップの輸入に制約が生じれば供給の先行きは不透明となり、国内需要、とりわけEV向けが優先されれば輸出余力が細る可能性がある。こうした見通しを前提に、中国中心の調達から転換し、マレーシア、タイ、インドネシア、韓国、中東など複数地域から調達できる体制へ移行した。
あわせて、ベトナム国内の調達も組み入れた。操業初期はベトナムではアルミインゴット精錬基盤がなく現地調達は皆無だったが、昨今では外資の技術導入により国内供給の基盤が整い始めている。現在は日系の技術資本が入る国内精錬企業からの調達も進む。コロナ禍では感染対策に加え物流停滞が重なり、「材料が入らない」事態そのものが最大のリスクとなり得ることを再認識した。中国以外の調達網と国内供給を重ねるかたちで供給体制を再構築し、BCPの観点から多元化を進めている。
金型は現地協業で最適化、QCDで回す運用設計
ダイカストにおいて金型は品質とコストを左右する中核要素となる。ツクバ・ダイキャスティング・ベトナム(TDV)は本格的な内製化には踏み込まず、現地の専門メーカーと連携する枠組みを敷く。受注後は顧客図面をもとにダイカストで成立させるための形状提案やコスト面の助言を行い、その内容を踏まえて金型メーカーに設計・製作を依頼する。社内にも金型担当部門を置き、日常メンテナンスや小修正、治具類を担う。
調達構造はこの十数年で転換した。従来は日本からの金型支給が中心だったが、価格上昇と納期の長期化に加え、現地での緊急対応や日常メンテナンスの機動性に課題があった。そこで同社はベトナムの金型メーカーを開拓し、現地調達へ移行した。2010年以降、日本で経験を積んだ技術者や現地の日系企業出身者が独立する動きもあり、金型産業の裾野が広がった。
当初はダイカスト金型の経験が乏しい企業も多く、樹脂金型の知見を土台に「どう作るべきか」をすり合わせながら精度と耐久性を高めてきた。現在は性能、コスト、納期の選択肢が広がり、不具合時に24時間で駆けつけられる関係を築く先も出ている。特定の一社に固定せず、各社の強みを踏まえた最適な組み合わせで案件ごとにパートナーを選び、5~6社体制で回す。
協業先の見極めでは、設備や技術に加え、相手の考え方や姿勢も重視する。最終判断は茂木氏が担い、社長同士で面談し合意したうえで取引を開始する。新分野への挑戦意欲の高さは、ベトナム企業に共通する特徴の一つと捉える。
責任軸と顧客接点で現場を鍛え、判断力を引き上げる
茂木氏は、現場が自律的に動ける体制づくりを人材育成の軸に据える。国籍や環境の違いに寄らず、人としての根幹に立ち返り、考え方と行動の拠り所を明確にするところから出発した。2016年の着任時に示したのが、行動を律する「4つの責任」である。顧客、従業員とその家族、ベトナム社会(取引先を含む)、親会社の四者に対する責任を基準とし、「自分の行動がそこから外れていれば指摘してほしい」と現地スタッフに共有した。この指針は共通理解として定着し、日常の意思決定の基盤となっている。
育成の中心に置くのは、概念教育ではなく顧客との接点を通じた経験の蓄積である。多様な顧客と向き合いニーズを理解する過程で、図面の意図や要求の意味を自分の言葉で捉える力が養われる。用途と仕様を結び付けて理解することで判断の軸が定まり、現場で取れる選択肢が広がる。疑問があれば自ら確認し、ときに顧客からの厳しい指摘も受け止め、そのやり取りを次の是正につなげる。
同社は業務をBtoBにとどめず、最終的に製品を使うエンドユーザーまで視野に入れた「BtoBtoC」の発想で捉える。取引先とともに最終用途を見据えることで仕事の意味が明確になり、品質と対応の一貫性が保たれる。
日々の運営では、ばらつきを抑えるための確認の場を設ける。毎朝7時45分からの朝会は30分以内とし、前日の不良や出来高を同じテーブルで共有して認識をそろえる。
注意の伝え方にも配慮する。人前での叱責や名指しでの指摘は避け、必要に応じて通訳を交えた個別対話で修正する。関係性を損なわず率直に意見を交わせる環境を保つためである。
茂木氏は同社を「まさにベトナム国と同様に発展途上の会社」と位置づける。内部に正解を閉じず、顧客との対話を通じて認識や知見を持ち寄り、改善を進めていく。その積み重ねが、現地スタッフの成長と組織全体の対応力の底上げにつながっている。
制度運用の揺らぎに向き合い、対話で更新を実現
ベトナムで製造拠点を運営する外資企業にとって、営業ライセンスの更新は操業継続を左右する重要な手続きとなる。ツクバ・ダイキャスティング・ベトナム(TDV)のライセンスは30年期限で、2025年に満了を迎える見込みだった。
審査の過程では、長期使用設備の扱いに関する指針が示され、「10年以上使用した設備は廃棄する」と受け取られかねない記述が含まれていた。既存設備を長く使い続ける日系製造業の実情とは整合しにくく、同社を含む複数企業の間で懸念が広がった。一方で、当該事項に関する監査ガイダンスは明確に示されず、現場では解釈が定まらない状態が続いていた。
同社は個別説明にとどまらず、JETROや在ベトナム日本大使館、JCCI(在ベトナム日本商工会議所)を通じた官民対話の場で課題を提起し、首相府にも直接説明する機会を得た。設備更新の実情と企業側の考え方を丁寧に伝え、制度の整合を求めた。
その後、問題となっていた設備関連の規定は見直され、審査の前提条件が整理された。TDVでは当該条項の削除後、2025年10月に営業ライセンスの更新認可を取得した。行政側でも同種案件の処理経験が蓄積し、手続きの流れや審査の進め方は徐々に明確になりつつある。
規定や運用は今後も変わり得る。企業側にはその都度、現場の状況に即した説明を尽くし、当局との対話を重ねる姿勢が求められる。同社の対応は、同様の課題に直面する日系製造業にとって、制度変化に向き合う際の実務的な示唆となる。

顧客分散で基盤を固め、2030年へ連続性をつなぐ
2030年に向けた事業の構想は、規模の拡大ではなく顧客の分散と基盤の安定に軸を置く。茂木氏が掲げるのは「10社でやるより100社でやる」という発想で、特定顧客や特定業界への偏りを抑え、需要変動に対する耐性を高める狙いだ。ダイカスト部品は筐体やカバー用途を中心に幅広い分野へ展開余地があり、対象領域はなお広がるとみる。
「アルミやマグネのダイカストで用いるインゴットは、工程で生じる端材を廃棄せず容易に再利用できる。こうした循環性は環境負荷の低減に寄与し、SDGsの考え方にも通じる。鉄より軽いアルミ、樹脂よりも耐熱性と強度に優れ、薄肉化にも適するマグネ。それぞれの特性を丁寧に伝えながら、ダイカストの価値を広げていきたい」
実行面では、市場動向と顧客の投資意図を起点に案件化までの道筋を描く。「なぜその製品に注力するのか」「顧客にとってどの位置づけか」を把握し、自社の加工領域へ落とし込む。半導体関連など新分野からの引き合いも生まれており、数年内の量産立ち上げを視野に入れる。
自動車分野の比率は50%程度を目安としつつ、それ以外の領域を厚くする方針は変えない。中小企業としての体力を踏まえ、常に足元の立ち位置を理解しながら受注を着実に伸ばす。日々の取り組みの積み上げが、2030年の事業構造に結びつくという考え方である。
経営面では後継人材の育成を進める。現地幹部は現場マネジメントの経験を積んできた一方、経営判断に関わる機会は限られてきた。今後は意思決定の領域にも段階的に関与させ、視野を広げる。社内の情報共有は日常の業務に組み込み、管理職間で品質や出来高の状況を共有する仕組みを維持する。組織の連続性をどう保つかという課題に向き合い、役割と情報を社内に行き渡らせながら、次世代への移行を見据えた体制を整える。
ベトナムでの操業は約30年に及ぶ。北部工業団地の形成と歩調を合わせて進出し、顧客構成の変化、輸出入制度への対応、材料調達の見直し、外部パートナーとの協業、人材育成といった課題に向き合いながら生産を継続してきた。現場で培われた判断と運用の蓄積が、現在のツクバ・ダイキャスティング・ベトナムの土台を形づくっている。

