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未来を創る中・高校生たちのストーリー ──郁文館「ZENSHIN」世界への挑戦記 02. 挑戦の舞台裏 ロボット設計に込めた情熱と学び

未来を創る中・高校生たちのストーリー ──郁文館「ZENSHIN」世界への挑戦記 02. 挑戦の舞台裏 ロボット設計に込めた情熱と学び

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 ZENSHIN Roboticsの初年度は、まさに未知への挑戦であった。
技術力も経験もゼロの状態からのスタート。限られた時間と資材の中で、世界大会出場を目指すという無謀にも思える目標に挑み続けた。

 当初掲げた「多機能かつ効率的なロボット」という理想像は、やがて「とにかく動き続けるロボット」という現実的な目標へと変化した。この転換こそが、彼らの“初挑戦”の象徴である。

 活動初期は、メンバーの多くが海外留学中であり、決まった拠点すら存在しなかった。
それぞれがオンラインで技術を学び、帰国後に校内の技術室や東京大学工学部の工房を借りて作業を進めた。工具も部品も足りず、設備環境も整わない中で、東京大学の支援が大会出場への大きな後押しとなった。

資材不足と技術的制約を越えて

 初めての大会参加にあたり、部品調達から試練は始まった。
FRCが北米中心の競技であることから、必要なパーツの多くは輸入に頼るしかなかった。
輸送費の高騰によりコストは倍増し、発注から納品まで一か月を要することもあった。
国内パーツで代替する工夫を重ねながら、コストを抑えるか品質を取るか――その狭間での葛藤が続いた。

 技術的にも試行錯誤の連続であった。設計やプログラミングを一から独学でメンバー全員がスキルを磨いた。
 早稲田大学の助教による助言や、海外チームの支援、スポンサー企業の協力が重なり、ようやく大会出場にこぎつけた。

 不足を嘆くのではなく、工夫によって限界を突破する――その姿勢がチームを支えた。

「動き続ける」ことを目標にした設計思想

 FRCの競技は、ロボット同士が激しくぶつかり合う。
ZENSHINが掲げた設計思想の核は「とにかく動き続けること」。壊れにくく、修理しやすい構造を追求し、信頼性を最優先にした。
複雑さを削ぎ落とした「シンプルさ」こそが堅牢性を生み、限られた環境下でも確実に動作する強さをもたらした。

 設計段階では無数の案が生まれ、修正と再設計の連続であった。
組み立てを始めてから設計ミスに気づくことも多く、そのたびに緊張感が走った。それでも思考を尽くし、試行を重ね、初めてロボットが動いた瞬間には歓喜が訪れた。
まるで命を吹き込んだかのような達成感――その瞬間が全員の努力を報う証であった。

壊れても諦めない――チームの精神

 大会本番では、ロボットの破損は日常であった。
試合ごとに損傷し、次の試合までに修復を終えるため、技術班は時間との闘いを続けた。
当初は失敗のたびに落胆していたメンバーも、やがて「壊れても諦めない」という姿勢を身につけた。
失敗を恐れず挑み続けることが成長の証であると気づいたのは、この経験を通じてである。

 壊れた箇所を直すたびに、構造を理解し、より強く改良する。繰り返しの中でチームは確実に進化していった。

信頼が生む連携の力

 初年度を通じて、メンバーが最も学んだのは「信頼」と「責任」である。
タスクを分担するだけではなく、互いの努力を信じ、補い合うことの重要性を痛感した。
不安を抱えながらも、互いの判断を尊重し、チームとして成果を最大化することに努めた。
そこには、信頼がもたらす強固な連携があった。

 仲間の進捗を気にかけ、支え合う中で、各自に生まれたのは責任感である。信頼が責任を生み、責任が技術の精度を高める。この循環こそ、ZENSHINが次の世代へと継承すべき文化である。

経験の先にある確信

 技術的な困難、資材不足、度重なるトラブル――そのどれもが彼らの糧となった。
設計・修理・協働、そのすべての工程に「考え、行動し、改善する」という学びの循環が息づいている。
 ZENSHINは単なるロボット製作チームではない。
限界を突破し続けることで、挑戦の価値を証明し続ける学びの共同体である。

 初年度にして世界大会へ進出を果たした背景には、技術力を超えた組織力と精神の成熟がある。それは、壊れても立ち上がる粘り強さと、仲間を信じる連携の力。
ZENSHINの歩みは、若き技術者たちの成長物語であると同時に、ものづくりの本質――失敗を恐れず挑み続ける精神を体現する証である。

【一般社団法人ZENSHIN(ZENSHIN Robotics)】 

・目的:生徒たちがサイエンスに関わるグローバルな活動に主体的に挑戦し成長する機会を提供することにより、サイエンスとグローバルに活動することの魅力を広めること 
・所在地:東京都文京区向丘2-19-1(郁文館夢学園内) 
・メンバー:郁文館グローバル高等学校・郁文館中学校・郁文館高等学校の生徒33名 
・公式サイト:https://www.zenshin-robo.com/ 
・寄附ガイド:https://www.zenshin-robo.com/AdmissionGuide_JP 
・クラウドファンディングページ:https://readyfor.jp/projects/161163 

■ 活動実績 

海外で開催される地域予選から世界大会にコマを進め、国際舞台でも高いパフォーマンスを発揮。国内でもロボット関連学会から評価されるなど、結成半年ながら快挙を成し遂げてきた。

2024年春にはFRCハワイ予選で2つの賞を受賞し、ヒューストン世界大会に日本チーム唯一の出場を果たす。続く2025年春にはFRCラスベガス予選に挑み、見事「Rising All-Star Award」を受賞するなど、確実に実績を積み重ねている。 

・FIRST Robotics Competition Las Vegas Regional(2025年3月, Las Vegas, Nevada) 
 – Rising All-Star Award(新人賞) 受賞 
・FIRST Robotics Competition World Championship(2024年4月, Houston, TEXAS)
  – 日本から唯一出場 
・日本ロボット学会高校生プレゼンテーション 
 – 優秀賞 受賞 
・FIRST Robotics Competition Hawaii Regional(2024年3月~4月, Honolulu, HAWAII)
  – Rookie All-Star Award(新人最優秀賞) 受賞 
 – FIRST Dean’s List Finalist Award(昨シーズンリーダー個人優秀賞) 受賞 

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