
業界特集

ヒラヰ電計機株式会社
掲載企業ヒラヰ電計機株式会社
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主要3品目
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低圧・高圧・徳高(特別高圧)/計器用変成器・計器変圧器・零相変流器
キュービクル用変流器・ロゴスキーコイル・リアクトル・電源トランス
変流器メーカー・変圧器メーカー・VCTメーカー
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従業員数
40名(パートアルバイト含む)
電力量計修理・製造業から計器用変成器メーカーへ―ヒラヰ電計機の歩み
ヒラヰ電計機株式会社は、京都市に本社を構える計器用変成器の専門メーカーだ。独立資本系の変成器メーカーとしては国内唯一となる同社の歴史は、平井大助氏が1921年に大阪で創業したことに始まる。創業当初は、当時舶来品が主だった電力量計(企業や家庭の電力メーター)の修理を主に手掛けていた。電力量計には電流を計測するための変流器(CT=Current Transformer)や、電圧を計測するための計器用変圧器(VT=Voltage Transformer)といった機器が接続されるが、海外製品を参考にこれらを自社で製作したことが、のちに主力事業となる。その後、現島津製作所の招請で京都に本社を移転、終戦後は配電盤のパネルメーター製造にも参入し戦後復興を支えた。
同社にとって大きな転機となったのはエポキシ樹脂絶縁計器用変成器の開発成功だ。変圧器の絶縁体として油の代わりに樹脂を用いる方式は1960年代当時まだ一般的ではなかったが、同社では他社に先駆けて製品化。その品質の高さから国内で初めてエポキシ樹脂絶縁計器用変成器として関西電力より正式に認可され、電力需要増大に伴う高圧連系の送電電圧変更(3300V→6600V)の際には、西日本を中心に大きな需要が生まれた。当時主力として販売した変成器(ECT-40A/EPT-50A)は、60年以上経った現在でも販売を続けている。




1980年代に「配電の自動化」トレンドが起こった際にも同社の変成器は活躍。電力会社からの大型受注が相次ぎ、四国で使われる柱状開閉器の中に同社製品が使用された。しかしその後、重電メーカー各社の台頭によりシェアが漸減、大量生産から少量特殊用途向けの生産に経営方針を転換した。近年では電力用だけでなく、リニア新幹線車両や原子力発電などの特殊な用途で用いられる変成器の製作も手掛けている。


変成器の品質が国民の命を守る―伝統の技術が支える日本の電力安定性
同社製品の品質の高さは日本の電力網の安定を支えている。計器用変成器はその形状や大きさから機械による自動製作が難しい。同社の工場ではコイルの手巻きからワニスの浸含(がんしん)、エポキシ樹脂の流し込みまでほぼすべての工程を熟練の技術者が手作業で担う。変成器が使用される数千ボルトの環境下では、これらひとつひとつの作業の品質が製品の寿命、ひいては電力従事者の生命や我々の生活に直結する。「新しい人材を採用した後、1人で作業ができるようになるまでには数年程度はかかります」と平井氏。このような手作業の製造工程においても、同社工場が2020年にISO9001認証を取得した際、指摘事項は0だったというから驚きだ。


高い品質を有する同社製品だが、安価な海外製品の流入によってその市場環境は年々厳しさを増している。前述のように手作業が主となる変成器の製造において、海外製品にコスト面で対抗することは不可能に近い。「海外製品を取り寄せて中身を見てみましたが、品質として安全性の低いものも少なくありません。安価である事を優先し、使用する事によって、日本の電力網の品質は低下していくと思います」と平井氏は危機感をあらわにする。


電力の世界において、製品・技術の安定性はその革新性よりも重要度が高い。確かな品質を担保できる国内メーカーを維持し、自国のインフラを自給自足しなければ国防にもかかわる。しかし、政府の補助金や助成金の多くは新技術の研究開発に向けられているのが現状だ。「インフラの安定性が失われようとしていることが広く一般に認知され、社会問題化するよう望んでいます」と平井氏は語る。
けいはんな地区での地場産業の創出を目指して―80歳まで働ける会社に
競合となる重電メーカー各社でも撤退やラインナップ削減が相次ぐ厳しい市場環境の中、同社はこれからどのように舵取りをしていくのか。同社の解の一つが「地場産業の創出」だ。同社では令和元年に「令和けいはんな事業所」を設立し、今後は同事業所を核に地域に根差したビジネスをしていくという。「変成器の製造は手作業が多いため、一度技術さえ身に着ければ生涯働くことができます。弊社では80歳のベテラン社員も活躍しています」と平井氏は説明する。機械での代替が困難な特性も活かし、地域雇用の創生も目指していく。
このほかに、同社ではCSR活動の一環としてヤギによる除草を取り入れている。工場の敷地の法面でヤギが放し飼いされる光景はメディアでも取り上げられ、地域からの評判も高いという。


2021年には創業100年を迎え、電力業界への長年の貢献から日本電気協会の澁澤賞も受賞したヒラヰ電計機株式会社。厳しい市場環境の中でも日本の暮らしを守るために、次の100年に向けた挑戦が始まった。