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未来を創る中・高校生たちのストーリー.01 ──郁文館高校「ZENSHIN」世界への挑戦記 

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 2023年に、郁文館グローバル高校の学生が立ち上げた一般社団法人ZENSHIN。彼らは学びを社会に還元する実践者として、ロボコン世界大会という大きな舞台に挑む。限られた資源の中で試作・改良を重ね、理論を現実へと変えていくその姿は、まさに“未来を切り拓くエンジニアの卵”。 

 日本の製造業が育んできた創意工夫と技術への情熱を、若い力が次の時代へとつなぐ。世界に挑む中・高校生たちの挑戦を、全5回の特集でお届けする。 

一般社団法人ZENSHIN――中高生が運営するロボティクス法人の挑戦 

 FRC (注1)に出場するチームを母体とし、中高生自らが運営を担う一般社団法人。それが「ZENSHIN」である。名称には“前進”“漸進”“全身全霊”“全進(全力で進む)”“禅の心(和の心)をもって進む”といった多層の意味を込め、国際的な活動姿勢を示すため英字表記を採用している。 

 創設にあたっては、部活動や学生団体など複数の形態を比較検討。生徒自身が意思決定・資金管理・対外折衝までを担う主権性を最重視し、あえて学校の枠を超えた法人化を選択した経緯を持つ。 

 世界最大級のロボコンであるFRC(FIRST Robotics Competition)では、活動資金が高額に上ることでも知られる。ZENSHINはその運営において、財務の透明性と契約面での信頼性を確保。スポンサー、学校、地域社会との連携基盤を築き上げている。 

 組織文化の根底にあるのは、「考える→行動する→振り返る→改善する」という学習循環の姿勢。挑戦への熱量と相互尊重の精神を両立させる風土づくりを重んじている。ロボット製作にとどまらず、教育機会の拡張、国際交流、地域貢献にまで活動を広げ、持続可能な学びの場を志向する次世代型教育コミュニティである。 

挑戦の原点――高校生の呼びかけから始まったZENSHINの歩み 

 原点は、カナダ留学中にFRCを経験した一人の高校生の呼びかけである。「日本でもこの挑戦を実現したい」という強い思いに共鳴した仲間たちが集い、資金・設備・人材のいずれも乏しい状況から歩みを始めた。 

 目的は明快であった。日本の高校生が世界水準の舞台で学び、自らの手で世界大会という同じ景色を見に行くこと。その目標を掲げ、生徒たちはスポンサー開拓、学校・地域との調整、技術メンターの確保、国際大会への遠征準備など、運営のすべてを自らの手で担ってきた。 

 限られたリソースの中で、困難を学びへと変換する姿勢を磨き、挑戦のプロセス自体を成長の糧とする文化を形成。勝敗にとらわれない価値観を共有し、挑戦し続けることそのものを教育と捉える哲学を育んできた。 

 こうした理念と実践を基盤に、ZENSHINは主体性と社会との接続を同時に育む新たな学習環境として進化を続ける組織である。 

世界大会への挑戦――「結果」ではなく「学び」の舞台 

 ZENSHINが世界大会を目指す理由は、単なる勝敗の追求ではない。継続的な挑戦を通じて、生徒が総合的に成長できる環境を提供することにある。 

 FRCは、技術力のみならず、社会的意義、チーム理念、プレゼンテーション、安全運用、多文化協働といった幅広い要素を評価対象とする“統合型教育プラットフォーム”。その世界大会は、技術教育のオリンピックにも比される舞台であり、参加そのものが強烈な学習経験となる。 

 ZENSHINの生徒たちは、世界の水準を直視しながら、日本の強みと課題を相対的に捉える視座を養っている。将来的には、技術者、投資家、行政担当者、教育者など、多様な立場から日本の技術発展を牽引する人材の育成を目指している。 

 さらに、同法人は理工系にとどまらず、アートやビジネス志向の生徒にも門戸を開放。技術を社会に接続する広い裾野を育み、異なる才能が交差する場を形成している。世界を目指す過程そのものを、学びと社会貢献を結び直す最良の教育活動と位置づける理念型組織である。 

日本発の教育モデルを描く――挑戦が循環するエコシステムの構築 

 ZENSHINが見据えるのは、単なる一過性の挑戦ではない。中期的には世界大会の常連チームとしての地位を確立し、日本の中高生が継続的に国際経験を積み、世界水準の技術と運営文化に触れる機会を拡大することを目標としている。 

 その実績と情報発信を通じ、国内のFRCチームに対してロールモデルとしての役割を果たし、挑戦者が連鎖的に増加する仕組みを構築。挑戦の文化を社会全体に波及させる構想である。 

 長期的には、活動を通じて技術者のみならず、官僚、投資家、教育者など多様な分野で活躍する人材を輩出し、全国規模で高校生がハードウェア分野を含む先端技術に挑戦できる環境整備を目指す。 

 法人としての運営規律(財務の透明性、安全文化、コンプライアンス)を重視する一方で、生徒主体による意思決定や失敗から学ぶ自由度を担保。挑戦が循環し続ける教育エコシステムの確立を志向している。 

 最終的な到達点は、学校・企業・地域・海外コミュニティを結ぶオープンな“教育×技術(STEAM)×社会”プラットフォームの形成。日本発の新たな学びの標準モデルを提示する未来構想である。 

技術で世界とつながる――ZENSHINが描く未来像 

 ZENSHINが見据える未来は、日本の中高生同士がものづくりの未来を語り、健全に競い合い、協働しながら社会に価値を還元できる基盤の確立である。 
 “技術でつながる若者のプラットフォーム”として、FRCで培った経験・人脈・運営知識をオープンに共有し、教育と産業のあいだに実践的な橋をかける存在である。 

 英字表記に込められたZENSHINは、国際志向を体現しつつ、和の心と全身全霊の姿勢で前へと進み続ける。その先に描くのは、若者が世界の技術をリードする当事者となり、日本の強みと課題を見極めて未来を設計する社会の実現である。 

 ロボットをつくることは手段にすぎず、技術で世界に挑戦する文化を日本社会に根づかせることこそが到達点。 
 その歩みを次の世代の標準とすべく、今日も前進(ZENSHIN)続ける。 

 

注1)FRCとは:FRCはFIRST Robotics Competitionの略で、15歳から18歳の青少年を対象とした、国際的なロボット競技会。 ロボットに記載された9498は、FRCに参加する、ZENSHIN Roboticsが運営するロボットチームの大会におけるチーム番号。 

【一般社団法人ZENSHIN(ZENSHIN Robotics)】 

・目的:生徒たちがサイエンスに関わるグローバルな活動に主体的に挑戦し成長する機会を提供することにより、サイエンスとグローバルに活動することの魅力を広めること 
・所在地:東京都文京区向丘2-19-1(郁文館夢学園内) 
・メンバー:郁文館グローバル高等学校・郁文館中学校・郁文館高等学校の生徒33名 
・公式サイト:https://www.zenshin-robo.com/ 
・寄附ガイド:https://www.zenshin-robo.com/AdmissionGuide_JP 
・クラウドファンディングページ:https://readyfor.jp/projects/161163 

■ 活動実績 

海外で開催される地域予選から世界大会にコマを進め、国際舞台でも高いパフォーマンスを発揮。国内でもロボット関連学会から評価されるなど、結成半年ながら快挙を成し遂げてきた。

2024年春にはFRCハワイ予選で2つの賞を受賞し、ヒューストン世界大会に日本チーム唯一の出場を果たす。続く2025年春にはFRCラスベガス予選に挑み、見事「Rising All-Star Award」を受賞するなど、確実に実績を積み重ねている。 

・FIRST Robotics Competition Las Vegas Regional(2025年3月, Las Vegas, Nevada) 
 – Rising All-Star Award(新人賞) 受賞 
・FIRST Robotics Competition World Championship(2024年4月, Houston, TEXAS)
  – 日本から唯一出場 
・日本ロボット学会高校生プレゼンテーション 
 – 優秀賞 受賞 
・FIRST Robotics Competition Hawaii Regional(2024年3月~4月, Honolulu, HAWAII)
  – Rookie All-Star Award(新人最優秀賞) 受賞 
 – FIRST Dean’s List Finalist Award(昨シーズンリーダー個人優秀賞) 受賞 

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