成長企業の経営戦略
株式会社ユウワ
代表取締役社長 渡辺 稔 氏
掲載企業株式会社ユウワ
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主要3品目
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プラスチック成形用金型設計・製造
プラスチック成形加工
超精密成形
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従業員数
210 人
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年間売上高
- 68 億円(2022 年度)
魅せる工場
「お客さまが来た時に、“すげーな”と思ってもらえる工場をつくろうと思いました。まさに目で見て、そう感じてもらえる工場をつくろうと決めたんです」。株式会社ユウワ代表取締役社長・渡辺稔氏が語るように、成形工場と金型技術センターからなる本社工場は悠然とたたずんでいた。
1994年に稼働開始した成形工場は、塵が入り込まないよう工場2階の供給室から材料を成形機に直接送り込む仕組みになっている。さらに113台の成形機が並ぶフロアは、クリーン度クラス10万のフィルターを経た空気が流れ込むという念の入れようだ。隣接する金型技術センターは2007年竣工。同社グループの核となる、金型技術の発信基地だ。±1μの精度維持のため、工場内は±0.5℃の恒温に保たれ、床には機械の防振対策が施されている。まさに来訪者を圧倒する、見せる(魅せる)工場なのだ。
利益を上げ、潰れない会社をつくるのが経営
1975年、渡辺氏の父・頼雄氏が社長となり、親族や友人とともに有限会社友和金型製作所を創業。“これからはプラの成形が波に乗るぞ”との着眼から始めた金型事業であり、親族と友人の和で盛り立てようというのが社名の由来だ。
金型だけにとどまらず注射器部品など医療品製造を行うようになった同社は、成形工場を開設。射出成形機を増やしていく。
中学時代から兄弟で現場の手伝いをしていた渡辺氏は、将来は会社を継ぐものとすでに腹を括っていた。工業高校に進むと、休暇に入った従業員の代わりに工場で働いて年越しをした。そうして思った。「バリが出るたびに損失が出る。バリが出るのは当たり前なのだろうか?」と。そして、こうも思った。「全員が出社しなくても、現場はこうして回っているじゃないか」と。工場の効率化というものが、なんとなく分かった気がした。
93年、工業大学を卒業した渡辺氏は、改組・社名変更したユウワに入社。やがてITバブルとともに通信用リレー部品が活況を呈するように。一方で、カンとコツを頼りにした職人が現場で幅を利かせていることに渡辺氏は疑問を感じてもいた。
2000年に入りITバブルが弾けると、売上は一挙に下がった。だが、技術変革を行った同社は、携帯電話のコネクター製造にシフトし、危機を脱する。給与カットすることで乗り切ってくれた従業員には、期末賞与でカット分をお返しすることができた。
だが、かねてより中国・深圳(しんせん)の工業団地で製造現場を調査していた渡辺氏は「今ある仕事は中国へ行ってしまう」と危惧する。「よし、中国へ出よう」。
03年、台湾企業と江蘇省蘇州市で合弁会社を立ち上げた。友華精密電子(呉江)有限公司である。総経理には、渡辺氏の弟である本社専務・慎也氏が就任した。
合弁会社は2年目から配当が得られるようになった。もうひとつ、「台湾人の会長に利益追求の姿勢を徹底的に学んだのも大きい」と渡辺社長は言う。「技術を磨き、人を育てることも大切だが、経営の目的は利益を上げ、潰れない会社をつくることなのだと叩き込まれた」
仕事を断る
2012年、社長に就任した渡辺氏がまず行ったのは、「仕事を取りに客先に出向くのではなく、仕事を断りに行くこと」だった。たとえ利益が出ている仕事があっても、ほかに赤字の仕事を抱えていては相殺されてしまう。赤字の仕事を断りにいった客先では、「あんたが社長になって大丈夫なのかい?」と言われた。しかし渡辺氏の中には、台湾人会長の言葉があった。「崖のぎりぎりのところで空を見上げるなよ、落ちるぞ。1歩下がったところにしろ」―仕事がない時には、安心感を得るために儲からない仕事でも受けてしまいがちだ。だが、儲からない仕事はやめるだけで利益が出るのだ。その分の余力を違う仕事に当てれば技術も上がる。
渡辺氏がさらに行ったのが、“コツ消し”である。カンとコツに頼り、身体で覚えるのではなく、物理的、数値的に置き換え、機械で対応するモノづくりだ。
環境への配慮は、渡辺氏の事業展開の大きな柱だ。“魅せる”工場である本社は、自然と人に優しい製造現場でもあった。屋根の7割に太陽光パネルを設置し、年間の発電量は30万9136kWh。一般家庭75世帯分をまかなえる電力量を発電できる。地下水で空気を冷やし、さらに機械の冷却水として使用。また、雨水を循環ろ過し純水機を通した水をワイヤ放電加工機に用いる加工液に使用している。そして、本社に隣接する森に不法投棄されていたゴミを社員の手によって回収し、友和の森として整備。人々の憩いの場となるよう保全に努めている。
お客さまを歓迎するため本社前の芝生の手入れを行っているのは渡辺氏だ。自ら乗用芝刈り機のハンドルを握っている。
渡辺氏に、今後の展開について訊いてみた。「成形単品で一貫生産してきただけでは差別化しにくい。ベトナム拠点(09年から操業開始)で、組み立てまでを行っているが、本社でも行っていきたい。医療分野でそれができるといいですね」
経営者の素顔
なんでも自分でやりたがりだから、会社の芝生を刈ってるわけなんですが、趣味ってないんだよな。家庭菜園で、キュウリやトマトを育てているのが楽しいかな。