業界特集
株式会社樹研工業
代表取締役社長 松浦 直樹 氏
掲載企業株式会社樹研工業
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主要3品目
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精密プラスチック部品(小物)の受諾成形
医療、光学を含む超精密プラスチック部品
歯車等精密機構部品
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従業員数
約100 人(パートを含むグループ合計)
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年間売上高
- 15 億円(2023 年グループ合計)
成形機から金型製作まで行う、高精度プラスチック射出成形メーカー
愛知県豊橋駅から車で約15分の場所に、黄色と青色が際立つ建物がある。株式会社樹研工業の本社だ。同社は光学機器や医療機器、腕時計、自動車、住宅設備などで使用されるプラスチック製小型精密部品を全世界に供給する射出成形メーカーである。売上の構成比は、自動車部品が約50%、医療機器が約30%、住宅設備部品が約15%だ。同社の成形部品の特長は、微細で精密な射出成形品を安定した品質で生産できることである。不良品の発生率は0.08ppmと極めて低く、仮に1000万個生産したとしてほぼ欠陥品が無い。現在、国内だけではなく、シンガポール、タイ、スイスなど海外からも超精密分野に関する問い合わせが増えている。
成形部品に加えて、主に自社向けに成形機や金型を製作する技術力をも保有する。本社敷地内にあるグループ会社、株式会社ジュケンマシンワークスでは小型成形機の製作を行い、有限会社ジュケンファインツールでは金型の製造・販売を担当している。成形機のラインナップは型締め力1.5t、10t、20tであり、数センチ角までの部品を成形できる。特長は、型締装置は横向き、射出ユニットは縦向きに配置されている点で、これによって専有面積を従来の半分に削減できる。
樹研工業が切り開く新たなビジネス領域
近年の動向として、代表取締役である松浦直樹氏は「国内外から難しい成形品の需要が増えています。また、生産量の変化に対する柔軟な対応力が求められ、単品の加工能力だけでなく、同じ加工方法で高品質かつ安定した量産設計が重要だと感じています」と述べる。
さらに、「高付加価値の定義も変化しています。以前は微細な製品が高付加価値品とされていましたが、小さいから難しいという時代ではなくなりました。今求められていることは、他社では扱えない材料や形状に対応する技術力と柔軟性だと考えています」と松浦氏。同社ではこれまでに製作経験がなかった部品の受注が増えている。すでに高付加価値品に精通する技術者を集めた専門部署を設置しており、今後は高付加価値品の生産性を1.5倍、10年後には売上占有率を約30%に上げる考えだ。
さらに、日本ハミングバード社を新しく立ち上げ、透過電子顕微鏡に使用される試料ホルダーの製作に取り組んでいる。試料ホルダーは非常に微細な製品であり、原子レベルの観察を行うために高度な加工技術力が必要とされる。同社は超精密加工事業で培われたナノ単位の切削技術等を活用して、試料ホルダーの製作に力を入れようとしている。
今後、樹研工業は超精密切削加工を中心に、サイエンス・医療分野への開拓を進めていく。すでに0.1nm単位で測定できる高度な設備環境や測定ノウハウを活用し、受託測定事業に取り組んでいる。同社はこれまで保有してきたノウハウや技術力を活用し、事業の多角化に成功した。新事業から得た知見を現行事業に還元するサイクルが生まれることにも期待が高まる。
ところで、音楽大学を卒業した経歴を持つ松浦氏。現在の仕事との結びつきを問われると「単純な好奇心もありますが、音楽とサイエンスはロジカルで、考え方が共通しています。音を鳴らし発生した現象を組み合わせたり、発想の転換をしたり、音楽で培った感覚や経験が仕事にリンクすることも多いです」と語った。しなやかで柔軟性のある発想で新規事業を推し進める同社。高精密な技術力と最適化された量産設計で安定した高付加価値なものづくりを行う、樹研工業の今後に注目だ。