業界特別企画
FINECS VIETNAM CO., LTD.
掲載企業FINECS VIETNAM CO., LTD.
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主要3品目
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電子部品用の極小端子・ピンの冷間圧造品
ダイオード・トランジスタ端子加工・中空ピン・リベット
曲げ加工・冷間圧造・鍛造品・フォーマー品の加工
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従業員数
日本人技術者:3名、ベトナム人スタッフ:98名 内 日本での就業経験者:17名
ベトナム南部・ビンズオン省のVSIP 1(ベトナム・シンガポール第1工業団地)に拠点を置くファインネクスベトナムは、精密プレスと機械加工を軸とする高精度部品メーカーである。2011年に進出。自動車向けセンサー端子の量産と単品加工を並行させ、出荷の約95%を輸出が占める外需型の生産拠点として稼働してきた。顧客は日系にとどまらず、欧米を含むグローバルネットワークへと広がる。品質要求の厳しい市場の中で受注を重ねてきた同社の現場と運営の実像を、石田慎一社長と西谷善弘工場長に聞いた。

3つの柱で広げる外需型の受注基盤
同社の事業は3つの柱で構成される。第一は順送プレスによる金属加工。自動車向け特殊センサーに組み込まれる端子をベトナムで製造し、全量を海外へ出荷する。出荷先は中国、タイ、日本経由で韓国へ至る三方向に及び、この分野が売上の約7割を占める。
第二は機械加工部品。マシニング、研削、放電加工を組み合わせ、図面ごとに一品を仕上げる少量多品種の受注が中心となる。用途は産業機器、半導体検査装置、スマートフォン検査装置など多岐にわたり、出荷先も米国、欧州に加え、ロシア、メキシコ、コスタリカへと広がる。
第三は商社機能。日本本社(富山県)が製造するOEMコネクターや圧造端子を東南アジアへ供給するパススルー販売である。圧造機で生産される数百種に及ぶ製品群を扱い、自社の技術領域を市場に示す役割も担う。現段階での規模は大きくないが、将来の物流量増加を見据え、現地生産への切り替えにつなげる販路形成と位置づける。
ベトナム進出と南部での工場設置の背景には、日本での出会いがあった。
「本社では2008年からベトナム人技能実習生を受け入れてきました。現会長がベトナム人の人柄や勤勉さに信頼を寄せたことに加え、実習生の多くが南部出身だったことが出発点です。ホーチミン市内にも大型工業団地はいくつかありますが、もともと湿地帯で地盤が弱い地域が多く、当社のプレス事業には適さないことがわかりました。そこで強固な土地を探した結果、ビンズオン省のVSIP 1に行き着きました」(西谷工場長)
同社は外需を基盤とする事業構造を築いてきた。プレス製品は100%輸出、機械加工部品も海外向けが6割。保税区(EPE)向けを含めると、全体の約95%が輸出関連書類を伴う出荷となる。法人形態はNon-EPEで、市場区分に縛られず案件ごとに柔軟に対応できる体制を整える。売上の約7割を自動車向けが占め、残る約3割を産業機器向け加工が担う。量産と単品の二軸で市場をカバーする構図だ。
石田社長の赴任は2020年11月、コロナ禍の最中だった。着任直後から隔離措置を経験し、2021年7月にはホーチミン全域がロックダウンに入る。事業を動かし始める局面にロックダウンが重なり、工場は稼働を大きく制約された。当初、ベトナムは感染を抑え込んでいる国と見られていたが、人口密集度の高さから感染は急拡大し、都市全体で外出が制限される事態となった。
「従業員は自宅から外出できず、生産を継続するには工場内での隔離生活を前提とせざるを得ませんでした。政府の指示により工場内での宿泊が認められ、当時約80人いた従業員のうち約40人がベッドを持ち込み、約3カ月にわたり敷地外へ出ることなく寝泊まりしながら操業を続けました」(石田社長)
敷地外への出入りが厳しく制限される環境下での操業となったが、この経験は現場の結束と対応力の底上げにつながった。
コロナ以前の営業は、顧客先を訪問し対面で技術力や対応力を伝えるスタイルが軸にあった。移動制限で訪問が難しくなるなか、対面に代わる手段として力を発揮したのが自社ウェブサイトである。ロックダウン直前に整備していたことで、事業内容や強みを体系的に示せる状態にあり、海外からの問い合わせが増加。受注は段階的に持ち直した。現在では新規顧客の多くがウェブ経由となり、営業活動を下支えする基盤へと育っている。
事業の変遷を振り返ると、開業当初からの精密部品加工と、2020年に立ち上げた順送プレス事業が現在の主軸である。周辺環境も変わった。進出当初は材料の現地調達が難しく、数年間は日本からの輸入に依存していたが、現在はベトナム国内の商社が日本材を在庫として保有する体制が整い、現地調達が可能になった。金型用鋼材も各国材を比較検証した結果、硬さのばらつきが少ないなど品質面で優位な日本材を採用している。
日本とベトナムをつなぐ人材循環と品質管理
人材育成と技術承継は、同社の競争力の土台である。日本本社では長らくベトナム人技能実習生の受け入れを続けてきた。現在はそれにとどまらず、ベトナムの大学卒業者を本社のエンジニアとして採用するなど、高度人材の確保にも力を入れる。日本で5年、10年のスパンで経験を積んだ人材が、将来ベトナム拠点で現場を牽引する役割を担う流れを描く。
さらに社内の人事異動制度を活用し、ベトナム工場の社員が本社で年単位の研修に参加できる機会を設けている。帰任後に技能、技術、管理能力を発揮することを想定した取り組みだ。精度要求の高い領域を扱う同社にとって、技能伝承と管理水準の維持は品質を担保する根幹であり、現場のリーダー層は日本での実習経験者が担う。
ベトナム人材の特性について石田氏は「決めたルールをきちんと守る点に強みがあります」と語る。現場のワーカークラスでは、手順を逸脱せず遵守する傾向が強い。一方、マネージャークラスではルール遵守に加え、課題に応じて自ら判断し対応策を組み立てる力が求められる。日本の管理職と比べるとトップの指示を待つ傾向も見られ、役割に応じた判断力の底上げが現場のテーマとなっている。
ベトナムは人材の流動性が高い。各社が福利厚生や社員旅行などで魅力づくりを図るものの、施策は横並びになりやすく、それだけで人材を引き留めることは容易ではない。同社は、高精度加工という付加価値の高い仕事そのものを魅力として前面に掲げる。難易度の高い加工を担い、その成果が世界各地の顧客に選ばれている実感を得られる点を、差別化の軸に据える。
品質管理は車載向け高精度プレス事業を軸に厳格に進める。扱うのは一般的な銅材ではなくニッケル合金のプレス端子であり、金型の損耗が大きい。品質を一定に保つためには短い検査サイクルと緻密な管理が不可欠となる。金型へのダメージは一般材の約10倍、寿命は約10分の1に達するため、状態監視と品質チェックを高頻度で実施する。現場では日本本社と同水準の管理手法を採用し、トヨタ自動車の指導に基づく5つの指標で品質やコストを可視化する「5大管理板」を運用する。基幹システムにはSAPを導入し、Teamsで日本本社と常時接続することで、現地単独では対応が難しい技術課題も日本側と連携して判断できる体制を整える。
技術基盤のもう一つの柱が西谷工場長である。日本の研削国家資格を持つ同氏は、2011年の工場立ち上げ当初から駐在し、約15年にわたり現場を指導してきた。長年の技術指導の蓄積が、現在の高精度加工を支える。
技術承継の面では、文化と言語の違いを前提とした教育が欠かせない。西谷工場長は「日本と同じ感覚をそのまま持ち込んでも伝わりません」と語り、ベトナムの文化を尊重しながら繰り返し教える姿勢を重視する。言語の壁により理解が十分でない場合でも「分かりました」と返答されることも多く、一度の指導で定着させることは難しい。進捗を確認しながら、繰り返し教えることを織り込んで現場を回す。
その取り組みを支えるのが「見える化」である。
「定量化できる項目は数値で示し、グラフ化し、さらに色分けするなど視覚的に状態を把握できる形に整理しています。緑は良好、赤は異常といったカラーマネジメントを取り入れることで、言語に頼らず状況を把握できます。日本の改善活動で培われた見える化の手法は、ベトナムに限らず海外工場全体で有効に機能すると実感しています。こうした仕組みにより、文化と言語の壁を越えて品質と技術の再現性を維持しています」(石田社長)


欧米に広がる受注領域、精度と対応力で信頼を積み上げる
金型分野では、いわゆる売り型にも対応する。顧客から製品図を受け取り、設計から金型製作、調整まで一貫して担う体制を整えた。対応分野は電子部品、半導体、車載を軸に、欧米企業向けの生活関連製品まで及ぶ。歯ブラシやカミソリといった衛生用品に加え、ジュエリー向けのプレス金型も手掛ける。分野を限定せず、自社で対応可能な領域を横断的に受注する方針である。欧州向けではフランスの航空関連メーカーとも取引があり、量産部品そのものではなく、加工治具、組立治具、測定治具といった周辺設備を供給する。用途ごとに役割を切り替えながら、顧客層を着実に広げてきた。
顧客層拡大の起点の一つとなったのは、ベトナムに進出する欧米メーカーの現地拠点での設備トラブル対応である。現地での対応実績が評価され、その企業の本社から同様の依頼が寄せられるようになった。さらに実績は顧客のグローバルネットワーク内で共有され、同一グループの米国や欧州拠点へと波及し、受注が連鎖する構図が形づくられている。
欧米企業との取引では事前のサプライヤー登録(ベンダー登録)が求められ、登録後はグループ共通の購買システムを通じて各国拠点から発注が行われる。これを参照した各拠点の購買担当が直接発注するケースもある。近年は欧米企業の東南アジア進出が進み、精密加工の外注先を探す動きが活発化していることもあり、同社へのウェブ経由の問い合わせは増加している。
一方、日本企業からの問い合わせは欧米に比べて多くはない。ベトナムは低コストの組立や精度要求の低い量産品を担う拠点という見方が一部に根強く残るなかで、高精度加工の委託先としては認識されにくい面がある。そのため日本企業からの相談では、精度や品質を日本と同等に維持できるか、工場環境が品質に影響しないかといった点の確認が中心となる。同社は高精度加工の実績と厳格な品質管理体制、整った工場環境を示し、個別案件ごとに検証を積み重ねるなかで信頼を築いてきた。

ベトナムを軸に進めるグローバル最適化
生活面でのベトナムは過ごしやすいと石田社長は語る。街には日本と同様に店舗が揃い、食事にも不自由しない。日本人医師のいる病院も複数ある。欧米赴任では日系医療機関が限られ、食生活や医療面での不安がつきまといがちだが、ベトナムではそうした心配は相対的に少ない。気候も一年を通じて温暖で、33度前後の気温が安定して続き、身体への負担も比較的小さい。
事業環境に目を向けると、ベトナムは活気を維持している。周辺国で慎重な見方が広がるなかでも、ベトナムでは業績を伸ばす企業が多く、翌年度の増収を見込む向きも珍しくない。人件費はこの10年で大きく上昇したものの、製造拠点としての魅力はなお高い。現状は人手をかけて付加価値の高い加工を担い、日本では敬遠されがちな手間のかかる仕事も引き受ける形で競争力を維持している。将来的に労務費が他国と拮抗する局面も見据え、自動化の導入や差別化戦略の検討も進むが、製造業の集積と市場規模の拡大が続くベトナムには引き続き多くの事業機会が見込まれる。
一方で、これからベトナム進出を検討する日本の中小製造業に対しては、事前準備の重要性も指摘する。生産面では材料調達の難しさがあり、ビジネス面では税務や労務など法令対応の負担が大きい。社会主義体制のもと国の意思決定の影響が強く、制度変更への対応に手間取る場面も少なくない。輸出入では同一品目でもHSコード(国際的な品目分類コード)の解釈が一様でない場合があり、判断が揺れるケースもある。労務費は一見安価でも上昇率は高く、生活面でも想定以上に費用がかさむ場合があるなど、コスト構造の見極めが欠かせない。
こうした制度対応は自社単独で担い切ることが難しく、コンサルタントとの連携が重要になる。法令の更新情報を継続的に取得するアンテナを張り、日本商工会議所などのネットワークも活用しながら対処を進める。現地スタッフ任せにせず、自社側も制度を理解する姿勢が求められる。日系企業同士の横のつながりも、趣味や出身地、大学といった共通点から自然に生まれ、情報交換の場として機能する。コンサルタントは日系を中心に活用し、日本語で要点の解説を受けつつ、実務は現地スタッフが担う体制とすることで理解の精度を高めている。
今後の展望は、グローバル全体での最適化に軸足を置く。日本では人口減少と労働力不足が進み、国内だけで製造を担う体制には限界がある。その中で、ベトナムで培ってきた高精度加工の実績を踏まえ、日本で成熟段階に入った製品の現地生産への移管を進める。さらに日本でしか対応できない高度なプレス端子など、他社が容易に模倣できない製品群についても、将来的にはベトナムでの生産展開を視野に入れる。
生産現場の運営はすでにベトナム人スタッフが中心となり、日常のものづくりは現地人材で回る体制が整いつつある。一方で新製品の開発や設計といった領域では、引き続き日本人が主導してファインネクスの顔となる製品を設計し、それをベトナム工場で製造・販売していく体制を描く。日本で磨いた技術とベトナム拠点の人材を組み合わせ、グループ全体で最適な生産配置を構築していく。その先に見据えるのは、ベトナムを重要拠点とした次の成長ステージだ。


