業界特別企画

公開日: / 最終更新日:

未来を創る中・高校生たちのストーリー ──郁文館「ZENSHIN」世界への挑戦記  04. 資金面の壁とクラファンへの挑戦――学生が自ら切り拓く“技術と社会の接点” 

掲載企業

 FRC(FIRST Robotics Competition)への挑戦は、単なるロボット競技ではない。 

 自ら資金を調達し、限られた時間と資材で世界大会を目指す――そこには、若い世代が“技術を社会に接続する”ための試行錯誤と覚悟がある。 

 ZENSHIN Roboticsは、学生主導の組織として、理想と現実の狭間で新しい学びの形を模索し続けている。 

海外遠征費という現実の壁――「夢」を支えるための冷静な計算  

 国際大会に出場するためには、莫大な費用がかかる。 
渡航費や宿泊費は一人あたり数十万円規模にのぼり、チーム全員分を賄うことは現実的に難しい。

 為替変動や航空券価格の上昇が予算を圧迫し、計画段階から不確定要素が多いのが実情である。 

 ロボット本体や機材の海外輸送には、梱包費・保険・関税を含め100万円近いコストが必要となる。 
コストを抑えるため、ロボットを分解してスーツケースに詰め、手荷物として持ち込む工夫も行っているが、現地で再組み立て・調整を行う必要があり、練習時間を削るリスクを抱える。 

 学生主体のチームであるため、安定的な資金源が確保しにくく、スポンサー獲得や広報活動もすべて自らが担う。 
学業との両立を図りながら運営を行うことは容易ではない。 

 教員や関係者の帯同費、現地での交通費・生活費を含めれば、遠征費用は想像を超える規模となる。 

部品価格の高騰と設計への影響――“技術の壁”の向こう側にある現実

 ロボット製作に必要な部品や資材の価格上昇も深刻である。 
原材料や輸送費の高騰、円安による為替影響が重なり、製作コストは年々増加している。 
海外製パーツに依存する構造上、価格変動の影響を直接受けることも多い。 

 ロボット認識用カメラ「ライムライト」や姿勢制御用ジャイロセンサーなど、不可欠な部品の入手が困難となり、既存機体からの再利用を余儀なくされるケースもある。 

 それでもZENSHINは、制約を創意で乗り越える姿勢を崩さない。 

限られた条件の中で最大のパフォーマンスを引き出す――その過程にこそ、製造業と通じる「ものづくりの本質」が息づいている。 

クラウドファンディングという選択――資金調達を“社会連携の実践”へ 

 ZENSHINが挑んだクラウドファンディングは、単なる資金確保の手段ではない。 
自らの活動を社会に発信し、共感と支援を広げるための「社会連携の実践」である。 

 学生が主体となり、プロジェクトの意義を言語化し、発信戦略を構築。 
これにより、企業スポンサー、OB、保護者、地域社会が横断的に支援するネットワークが形成された。 
“支援される側”から“共に創る側”へ――ZENSHINはその意識転換を体現している。 

 さらに、活動報告や成果の共有を通じて、透明性を確保。 
支援者との関係を一過性のものにせず、継続的な信頼関係として育てている。 
この姿勢は、若い世代が社会に対して責任を持ち、技術を通じて価値を循環させる新しいモデルである。

若き挑戦が描く未来――“挑戦が文化になる社会”へ

 クラウドファンディングをはじめとする一連の取り組みは、ZENSHINが「技術と教育を社会につなぐ場」として進化している証である。 
支援者と学生、教育と産業が連携し、学びを共創する構造が少しずつ形を成している。 

 限られたリソースの中で挑戦を続ける姿勢は、製造業が直面する現実とも重なる。 
技術、資金、人材――あらゆる制約を前提に創造を生み出す営みこそ、ものづくりの本質である。 

 ZENSHINの活動は、若き技術者たちが未来を設計し、社会に還元していく新たな挑戦の物語である。 
その歩みは、挑戦を文化へと変える力であり、日本の製造業が次の時代へ進むための希望の灯である。

【一般社団法人ZENSHIN(ZENSHIN Robotics)】 

・目的:生徒たちがサイエンスに関わるグローバルな活動に主体的に挑戦し成長する機会を提供することにより、サイエンスとグローバルに活動することの魅力を広めること 
・所在地:東京都文京区向丘2-19-1(郁文館夢学園内) 
・メンバー:郁文館グローバル高等学校・郁文館中学校・郁文館高等学校の生徒33名 
・公式サイト:https://www.zenshin-robo.com/ 
・寄附ガイド:https://www.zenshin-robo.com/AdmissionGuide_JP 
・クラウドファンディングページ:https://readyfor.jp/projects/161163 

■ 活動実績 

海外で開催される地域予選から世界大会にコマを進め、国際舞台でも高いパフォーマンスを発揮。国内でもロボット関連学会から評価されるなど、結成半年ながら快挙を成し遂げてきた。

2024年春にはFRCハワイ予選で2つの賞を受賞し、ヒューストン世界大会に日本チーム唯一の出場を果たす。続く2025年春にはFRCラスベガス予選に挑み、見事「Rising All-Star Award」を受賞するなど、確実に実績を積み重ねている。 

・FIRST Robotics Competition Las Vegas Regional(2025年3月, Las Vegas, Nevada) 
 – Rising All-Star Award(新人賞) 受賞 
・FIRST Robotics Competition World Championship(2024年4月, Houston, TEXAS)
  – 日本から唯一出場 
・日本ロボット学会高校生プレゼンテーション 
 – 優秀賞 受賞 
・FIRST Robotics Competition Hawaii Regional(2024年3月~4月, Honolulu, HAWAII)
  – Rookie All-Star Award(新人最優秀賞) 受賞 
 – FIRST Dean’s List Finalist Award(昨シーズンリーダー個人優秀賞) 受賞 

こちらの記事もおすすめ
pagetop